研究課題/領域番号 |
26303019
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 徹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (30282677)
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研究分担者 |
下島 公紀 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 准教授 (70371490)
鈴村 昌弘 独立行政法人産業技術総合研究所, 環境管理研究部門, 研究グループ長 (90357301)
海江田 秀志 一般財団法人電力中央研究所, 環境管理研究部門, 研究参事 (90371400)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 海洋環境 |
研究実績の概要 |
英国において平成27年度に予定されていた実海域CO2漏洩実験の28年度までの実施が困難になったため、申請書の「研究計画・方法」で述べたとおり、24年度に実施した実海域実験の環境回復調査を28年度に実施することとし、26年度は24年度のデータを用いて以下の研究を実施した。 24年度の弾性波探査結果を利用して海底下堆積層内の不均質さについて検討し、地下でのCO2挙動を予測するための数値シミュレーションに適用する地下モデルの再構築を行った。また、海底下堆積層の電気比抵抗を測定するための電気探査用の電極付き信号ケーブルを試作し、接地抵抗やノイズの混入状況などを調べた。 湾内の堆積物の化学組成(金属・栄養塩・炭酸塩)に関するベースラインデータを取得するため、24年度に採取されたCO2放出実験前の堆積物試料について蛍光X線分析とリンの形態別分析を実施した。地球化学参照試料と比較することで反応性に富む鉄の酸化物の含量が少ないことが分かった。リンの形態では、detrital(破屑性)の成分を多量に含んでおり、同湾の堆積物が比較的不活性な成分に富むことを明らかにした。 28年度予定の実海域観測では長期間のpHとpCO2の観測が予定されているため、既開発のセンサ制御、pHセンサ、pCO2センサについて、長期間計測が可能な基板を設計・試作した。これらの基板につき、別途実施された海洋観測において作動試験を行った。 24年の実験につき、堆積層中残存量、気泡状・溶存体での漏出量の割合を変えて、CO2海中拡散シミュレーションを実施し、CO2濃度の観測値と比較することで堆積層中残存量、気泡状・溶存体漏出量を推測した。 平成27年1月末に、24年度の実海域CO2漏洩実験のPTであるJeremy Blackford博士を招待し、ワークショップ「CCS実適用への道筋を考える: CCSの環境影響評価と社会的受容性」を東京にて開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は海底下堆積層に関する新たなデータが得られなかったため、既存データに基づき海底下堆積層内の不均質さについて検討した。データ不足により達成度は70%程度である。また、海底下の電気比抵抗計測のための電気探査用電極付き信号ケーブルの試作と、これを用いた計測は予定通り実施し、達成度は100%であった。 蛍光X線分析による解析が、堆積物のbulk(全体的)の化学的特性評価に有用であることが分かったが、例えば堆積物の二酸化炭素に対する反応性の指標として、特定の元素などを見出すことはできなかった。この点に関して、リンの形態分別では鉄結合態リンおよびカルシウム結合態リンが二酸化炭素の曝露に対して鋭敏に変化し、指標として有用であることが示された。 平成28年度の英国でのpHおよびpCO2の長期連続観測に向けたセンサ基板の試作・作動試験を行い、その性能が設計通りであることが確認できた。 平成24年の実験につき、堆積層中の残存した量、気泡状・溶存体で漏出するCO2量を変えて、溶存CO2の海中拡散シミュレーションを実施した結果、堆積層中にとどまっているCO2量は最大で注入CO2の40%であることを示した。 平成27年1月末に開催したワークショップでは、日英の研究者によるCCS の環境影響評価における人為的CO2漏出実験の意義の概説、我が国の政策におけるCCSの位置付けや展望の紹介を通して、我が国のCCSについて実証試験規模から商用規模への道筋を討論することができた。
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今後の研究の推進方策 |
海底下堆積層内の不均質さを考慮した地下モデルおよび平成24年のCO2放出実験時の流量や圧力データを用いて、平成24年度のCO2地中挙動を数値シミュレーションにより再現する。また、平成24年度に海底下地中に放出されたCO2が現状では流出していると想定し、平成28年度に再度電気探査による海底下の電気比抵抗を計測し、平成24年度の計測結果との比較から放出された海底下のCO2の分布評価を行う。平成27年度は電気探査用の電極付き信号ケーブルおよび計測システムを整備する。 Bulk分析、リンの形態分別に加えて、特に二酸化炭素に対する反応性が高いと推定される炭酸塩の含量と曝露時の変化について詳細な検討を進める予定である。平成24年度のQICS実験では、二酸化炭素放出点近傍を含めて計4地点分の試料を予備処理し保管してある。これらの分析を進めるとこで、現地でのベースライン調査に先立って、方法論の検討や濃度範囲など重要な情報が得られるものと期待される。 28年度の英国での観測につき、詳細な観測計画を検討すると共に必要な観測機器の整備を行う。新規に開発あるいは整備した観測機器については作動試験や運用試験を行い、実際の観測に適用できる観測手法の確立を目指す。 漏出CO2量を大きく変化させ、堆積層中残存量、気泡状・溶存体漏出量を調整した数値計算を実施し、海中CO2拡散シミュレーションを実施し、漏出量の違いによる湾内CO2拡散の差異を確認する。 平成27年9月に英国Southamptonにて開催予定のInternational Energy Agency-Greenhouse gas Division (IEA-GHG)のEnvironment Network Meetingにおいてセッションあるいはside eventを設け、IEA-GHGという国際機関に対して平成24年度の実海域CO2漏洩実験の成果を英国側研究者と共に公表する。また平成28年度の観測に関する詳細な打合せを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
英国において平成27年度に予定されていた実海域CO2漏洩実験の28年度までの実施が困難になったため、申請書の「研究計画・方法」で述べたとおり、24年度に実施した実海域実験の環境回復調査を28年度に実施することとした。 これにより、27年度の実海域CO2漏出実験に先だって26年度に計画されていた、現場海域でのベースライン観測は不要となり、また炭酸塩、栄養塩類、重金属類の堆積物試料の採取と化学分析は、28年度に順延となったため、基金分の旅費を使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年9月に英国Southamptonにて開催予定のInternational Energy Agency-Greenhouse gas Division (IEA-GHG)のEnvironment Network Meetingにおいてセッションあるいはside eventを設け、IEA-GHGという国際機関に対して平成24年度の実海域CO2漏洩実験の成果を英国側研究者と共に公表し、さらに平成28年度に実施する実海域環境回復調査に関して詳細な打合せを行う。このため、繰り越した基金分を旅費に使用する。
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