研究課題/領域番号 |
26303021
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
八久保 晶弘 北見工業大学, 工学部, 教授 (50312450)
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研究分担者 |
竹谷 敏 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (40357421)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ガスハイドレート / メタンハイドレート / 安定同位体 / 熱分解起源 / タタールトラフ / 結晶構造 |
研究実績の概要 |
サハリン島北東沖から南東沖テルペニヤリッジ、そして北海道網走沖に至るオホーツク海西縁部では、海底表層型の天然ガスハイドレート密集域が存在している。一方、サハリン島南西沖の日本海北部では調査データが少なく、未だ断片的な情報しか得られていない。平成26年度では、日本海北部のタタールトラフ域において表層型ガスハイドレート調査を6~7月に実施した。探査手法としては、まず音波・音響探査により海底表層のガスチムニー(堆積層深部からのガスの通り道を示唆)や海底から立ち上るガスプルーム(天然ガスの気泡からなる柱状のエコー)を指標として、これらの地点で海底堆積物コアを採取した。当該海域では表層堆積物コアを15本採取し、うち1本には天然ガスハイドレートが入っていた。船上ではガスハイドレート結晶およびガス・水・堆積物サンプリングを実施した。 天然ガスハイドレート採取地点では、熱分解起源と考えられる炭素同位体比の比較的大きいメタンが湧出しており、ガスハイドレート結晶はこれを包接してできている。一方で、周辺域の堆積物コアに含まれるガスは微生物起源メタン(炭素同位体比が小さい)主体であることから、この地点での湧出ガスの素性が際立って特異であることが明らかとなった。また、結晶構造解析からは天然ガスハイドレートが構造I型に属すること、メタンの他に硫化水素をケージ内に包接していること、結晶の水和数は6.0~6.1であること、等の知見が得られた。 一方、実験室研究ではメタンハイドレートの水和数に僅かながら圧力依存性があることを明らかにした他、海底堆積物を模した細孔中に生成したメタンハイドレートの熱物性・安定同位体特性、メタン・エタン系混合ガスハイドレートの解離特性、ハイドレート表面のミクロスケールでの形状、分子径の大きな炭化水素を包接する結晶構造H型の混合ガスハイドレートの物理化学特性等に関する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、平成26年6~7月に当該海域にてフィールド調査が実施され、わずかに1本だけではあるが、貴重な天然ガスハイドレート含有海底表層堆積物コアの採取に成功した。加えて、周辺海域においてガスプルーム地点を多数発見し、これらの地点でガスを多量に含む堆積物コアの採取も行なった。このことは、次年度以降における当該海域での調査地点候補が多数得られたことを意味している。これらの試料は実験室に持ち帰り、各種分析が実施されている。測定結果等については、日本雪氷学会や日本地球惑星科学連合大会等にて既に発表され、論文として公表予定である。 一方、天然ガスハイドレートはガス組成やガス安定同位体比その他の点で極めて多様である。したがって、天然ガスハイドレートの特性の理解には、人工的にガスハイドレートを生成し、単純化した系で様々な結晶解析を行なうことが望ましい。既に、ガスハイドレートの解離特性およびゲストガス安定同位体比に及ぼす堆積物粒子の効果、圧力(水深)がメタンハイドレート水和数に及ぼす影響評価、プロパンよりも大型の炭化水素分子を包接するガスハイドレートの結晶特性等について実験的研究を実施し、成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年6月に調査航海が予定されており、平成26年度に天然ガスハイドレートが回収された地点での試料採取に加え、サハリン島南西のモネロン島北方沖、また航海が順調であれば沿海州東岸までを調査対象に含む。平成26年度の調査地点を含む理由は、天然ガスハイドレートの粉末X線結晶構造解析に必要な量がこれまでに確保できておらず、結晶物性の理解を深めるために結晶の追加採取が必要なためである。また、そこから僅かに10km程度離れた地点では、微生物起源メタン(炭素同位体比が小さい)を包接する結晶が過去に回収されており、ロシア・韓国の各研究機関との共同研究体制により、堆積物中の微生物環境も含めた比較総合解析を実施する予定である。 タタールトラフ域での熱分解起源ガスを包接するガスハイドレートの発見により、サハリン島沖ではメタン炭素同位体比が-70‰から-40‰まで広範囲にまたがることがわかった。また、タタールトラフ域のハイドレートに包接されたメタンの炭素・水素両安定同位体比の関係は、淡水環境下で唯一、天然ガスハイドレートが見つかっているロシア・バイカル湖における関係との類似性が明らかになりつつある。今後は、海水・淡水それぞれの環境下で生成したガスハイドレートの比較研究を新たな主軸として加え、既に得られている知見と比較検討・総合することにより、天然ガスハイドレート産状および性状に関する理解が深まると期待される。 なお、実験室研究の分野においては、メタンハイドレート水和数の温度依存性、ガスハイドレート結晶に包接された高沸点炭化水素ガス(ペンタン、ヘキサン異性体)のラマンピーク、メタン・エタン混合ガスハイドレート解離時の結晶構造II型の再生成過程について焦点をあて、野外調査で得られた知見との融合を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究における最もコストの高い項目は傭船料であり、ロシア科学アカデミー所属の調査船を利用して実施している。この調査は日本(北見工業大学)、ロシア(V.I.Ilichev太平洋海洋学研究所およびP.P.Shirshov海洋学研究所)、韓国(極地研究所)の国際科学共同研究の枠組みの下に計画・立案されており、調査にかかる諸費用は各機関によるコストシェアを基本としている。その他、原油価格や為替レート等の影響を受けているため、調査航海の直前まで傭船料を決定することができない。平成26年度の調査では、各研究機関担当者との打ち合わせの結果、当初の予定より大幅に少ない分担金で本研究を遂行できることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、平成27年度以降の傭船料に使用する見込みである。
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