研究課題/領域番号 |
26304003
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
牧 輝弥 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70345601)
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研究分担者 |
市瀬 孝道 大分県立看護科学大学, 看護学部, 教授 (50124334)
小林 史尚 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (60293370)
柿川 真紀子 金沢大学, 電子情報学系, 准教授 (10359713)
松木 篤 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 准教授 (90505728)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオエアロゾル |
研究実績の概要 |
研究目的:中国大陸では,沙漠地帯(タクラマカン沙漠,ゴビ沙漠)で巻き上がる鉱物粒子が増え,アジア一円での黄砂現象が大規模化しつつある。近年,黄砂や汚染大気と挙動をともにする真菌や細菌(バイオエアロゾル)が,生態系(動植物や微生物)やヒト健康へ与える影響について強い関心が寄せられてきた。そこで,砂塵(黄砂)による微生物の越境輸送を解明し,その生体影響評価に取り組んだ。 実施内容:黄砂発生源であるアジア沙漠地域(タクラマカン沙漠)と黄砂飛来地(日中韓)の全7サイトにおいて,係留気球,ヘリコプターおよび山岳積雪調査を併用して,同一黄砂時に黄砂鉱物粒子を採取することに成功した。培養を経ない遺伝子分析法(次世代シーケンサー)によって,黄砂鉱物粒子に付着する微生物叢の群集構造を系統分類学的に解析した。その結果,タクラマカン沙漠の上空には,土壌由来の細菌と真菌が高度800mまで巻き上げられ,垂直混合することが判った。黄砂の影響が強い中国北京や韓国ソウルでは,大気中には土壌由来の細菌が恒常的に優占し,日本海を挟んだ日本山陰・能登地方では,海洋由来の細菌群(藍藻など)が土壌細菌に混じって風送されることが実証された。非優占種(Bacillus属の複数種)を大気試料から分離培養し,遺伝子多型解析でその長距離輸送を示された。一方、動物実験では、高度3000mで得た真菌類が強いアレルギー反応を示すことが判った。 成果:本研究成果を,申請者らが主催する第10回バイオエアロゾルシンポジウムで発表し,「バイオエアロゾル学」のもと異分野研究者及び行政関係者と交流した。また,種々の学会での研究発表,招待講演や市民向けシンポジウムで頻繁に研究発表し,国内外の専門学術誌に論文発表した。また,展望があり話題性の高い研究として,新聞記事およびテレビ報道で取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2014年~2016年の春季から夏季にかけて,黄砂発生源であるアジア沙漠地域(タクラマカン沙漠:中国敦煌)と黄砂飛来地(日中韓)の全7サイトにおいて,係留気球,ヘリコプターおよび山岳積雪調査を併用して,同一黄砂時に黄砂鉱物粒子を採取することに成功した。培養を経ない遺伝子分析法(次世代シーケンサー)によって,黄砂鉱物粒子に付着する微生物叢の群集構造を系統分類学的に解析した。その結果,タクラマカン沙漠の土壌に由来する細菌と真菌は,高度800mまで巻き上げられ、環境ストレス(紫外線、乾燥)に晒され、特定の微生物群(Bacilli目, Ascomycota門)のみが選択的に残ることが判った。黄砂の風送先である中国北京や韓国ソウルでは、春季には砂塵の影響が続き,大気中には恒常的に土壌由来の細菌が優占しやすかった。日本海を挟んだ日本山陰・能登地方には、黄砂とともに土壌細菌だけでなく,海洋由来の細菌群(藍藻など)も風送され,非黄砂時には島特有の植物や河川由来の微生物が大気中に優占した。大気試料から分離培養した微生物株の遺伝子多型を解析でしたところ,非優占種(Bacillus属の複数種)で長距離輸送を実証できた。一方、分離株や大気試料を使った動物実験では、高度3000mで得た真菌類が強いアレルギー反応を示すことが判った。 平成28年度に「日本学術振興会,頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」に,海外派遣者として採択され,昨年春にニュージーランドに長期滞在する必要が生じ,黄砂の試料収集が不十分となった。また,収集した遺伝子データが予想以上に膨大(数百倍)であったため,その解析に時間を要する。平成29年度春季に黄砂の再調査を実施するとともに,データか解析を充足させるため,一年の延長した。
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今後の研究の推進方策 |
本成果は,「大気微生物を対象とした熟練した観測技術」と「日中韓の観測ネットワーク(9年間)」を駆使して可能となるものであり,アジア発の独創的な大気研究として国際的な評価を得つつあると言って良い。しかし,黄砂の主要な発生源であるゴビ沙漠(モンゴル)での観測は手薄であり,大気微生物に関する情報は皆無である。そこで,本申請研究と平行して,ゴビ沙漠での大気観測にも試験的に着手し,砂丘のみのタクラマカン沙漠に較べ,動植物が生息する礫地のゴビ沙漠では,大気微生物が,高い多様性(3倍の種数)を示し,バイオエアロゾルの発生源となる可能性が示唆された。一方,ゴビ沙漠由来の大気微生物は,低高度(高度2000m以下)を飛散しやすく,大陸の都市部を経由し,汚染大気と混合しやすい。そのため,沙漠と都市部を区別できる観測サイトを増やし比較しないと,日本への越境輸送ルートを判別できないことも判明した。 そこで,ゴビ砂漠と中国都市部での観測サイトを拡充化するため,モンゴル気象水文環境研究所(モンゴル)と蘭州大学(中国)を共同研究体制を構築した。今後,日中韓蒙(全10観測サイト以上)で「東アジア全域での共同観測調査」を施行し,「バイオエアロゾルの発生過程と越境輸送ルート」の詳細を明らかにしていく。さらには,大気中浮遊微生物の分離培養株を増やし、黄砂・汚染粒子と混合した大気微生物の生態・生体影響も評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に「日本学術振興会,頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」に,海外派遣者として採択され,昨年春にニュージーランドに長期滞在する必要が生じ,黄砂の試料収集が不十分となった。また,収集した遺伝子データが予想以上に膨大(数百倍)であったため,その解析に時間を要する。平成29年度春季に黄砂の再調査を実施するとともに,データか解析を充足させるため,一年延長した。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年春季に大気試料の採取を続行し,超並列シーケンサーで大気浮遊微生物の解析を続行する。これまで撮り溜めた遺伝子データを解析し,環境因子が微生物群集構造に及ぼす影響を統計学的に評価する。成果を学会発表するとともに,論文としてまとめ学術誌に投稿発表する(目標3報)。
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