研究課題
本研究は、気象や樹木成長の季節性が異なる2タイプの東南アジア熱帯林を対象に、樹木の木部年輪セルロースの酸素・炭素安定同位体比プロファイル(同位体年輪)から、過去の気象と生理的環境応答の変動履歴を抽出することをめざしている。H26 年度は、視認可能な年輪が明瞭に形成されないPasoh熱帯雨林のフタバガキについて、木部セルロースの炭素・酸素安定同位体比を高解像度測定し、木部形成年代の推定と環境応答履歴の抽出を行った。微気象データと樹冠上の水蒸気フラックスデータに基づき木部セルロースの酸素安定同位体比の支配要因を推定した結果から、同位体年輪の酸素安定同位体比は主に降水の酸素安定同位体比を反映することが分かった。また、降水の酸素安定同位体比と降水量に負の相関があったことから、降水量と木部セルロースの酸素安定同位体比を用いて年輪形成年代を推定した。木部セルロースの炭素安定同位体比はセルロースを構成する光合成産物が生成された時の内的水利用効率を反映するが、樹幹上の二酸化炭素・水蒸気フラックスから算出した群落の内的水利用効率は土壌水分量の低下に伴い上昇していたのに対し、木部セルロースの炭素安定同位体比と土壌水分の関係はそれとは異なっていた。木部セルロースの炭素安定同位体比から過去の生理的環境応答を抽出するには、この差異の要因について解決する必要がある。MaeMo熱帯季節林でも、微気象データと樹冠上の水蒸気フラックスデータから木部セルロースの酸素安定同位体比の支配要因を推定し、Pasohと同様に主に降水の酸素安定同位体比を反映することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
MaeMo熱帯季節林については、木部円盤サンプルの年輪解析と分析が予定よりやや遅れているが、その他の観測と分析はおおむね順調に進行し、今後の解析に必要なデータの取得が進んでいる。Pasoh熱帯雨林については、観測、分析、解析ともに、おおむね順調に進行している。
以下の観測・分析・解析を継続して進める。①樹幹木部セルロースの酸素・炭素安定同位体比プロファイルの高解像度分析、②年輪形成年代の同定、③降水・葉のサンプリングと安定同位体比の分析、④観測タワーでの気象・フラックス観測や葉面積指数モニタリングの継続とデータベース化、⑤生理的環境応答指標の算出と葉内水・光合成産物の酸素・炭素安定同位体比の推定及び同位体比分析結果との比較・解析。H27年度は特に、以下のことを重点的に行う。MaeMo熱帯季節林については、樹幹木部円盤サンプルの年輪解析と酸素・炭素安定同位体比プロファイルの高解像度分析を重点的に行う。葉サンプルの酸素安定同位体比の分析を開始する。高品質の気象・フラックスデータを安定して得るため、タワー観測システムの強化とメンテナンスを行う。Pasoh熱帯雨林については、炭素14の分析を行い、年輪形成年代の同定精度の向上を試みる。
H26年度にウルトラミクロ天秤の購入を計画していたが、交付額が申請額より減額されたため購入を断念したこと、また分析補助の人件費・謝金を計上していたが大半を代表者・分担者・研究協力者で行うことができたことによる。
MaeMo熱帯季節林の気象・フラックス観測を継続するため、計画時に想定しなかった維持・メンテナンス費用が予期せず必要となったため、次年度使用額をそれに充てることとした。
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Agricultural and Forest Meteorology
巻: 202 ページ: 1-10
10.1016/j.agrformet.2014.11.013