研究課題/領域番号 |
26304008
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
寺井 洋平 総合研究大学院大学, その他の研究科, 助教 (30432016)
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研究分担者 |
松村 秀一 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (30273535)
今井 啓雄 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (60314176)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 種分化 / ゲノム解析 / マカク / 交雑帯 / スラウェシ |
研究実績の概要 |
インドネシア、スラウェシ島 にはこの島固有の7種のマカク属が生息している。これらの種は遺伝的に非常に近縁な種であり、分布の境界で交雑帯を形成しているため種分化の研究に最適である。本研究ではスラウェシ島のマカク属を用いて、種分化や種特異的な形質に関わる遺伝子を単離し、霊長類の種分化の機構を明らかにすることを目的としている。 平成 28 年度はMacaca tonkeanaとM. hecki とその交雑帯を調査地として調査を行った。始めに交雑帯で交雑個体のDNA採取を試みたが、交雑帯への道で大規模な工事を行なっていたために、短時間の滞在になりDNAは得られなかった。次にパル近郊にて、調査を行った。調査ではマカク個体から口内粘膜組織を少量採取した。採取した個体数は M. tonkeanaを2個体 M. heckiを5個体であっり、その結果どちらの種でも個体数が11個体を超えて集団ゲノム解析に必要な個体数を集めることができた。 平成 28 年度に収集したサンプルを用いてM. tonkeana 2個体とM. hecki 1個体のゲノムDNAから次世代シークエンスライブラリの作製を行った。ライブラリ作製はボゴール農科大学で行った。それらライブラリはエクソンキャプチャ法による全遺伝子配列解析を行った(寺井、今井)。 決定した配列からすべての多型座位を抽出した(寺井、今井)。これら多型座位は、M. tonkeana特異的、M. hecki特異的、両種での共有がほとんどで、種間で完全に分化した座位は0.3%以下であった。種間で完全に分化していた座位は種間の違いを作り出している遺伝子に存在していると予想され、それら遺伝子の機能と生態における役割の交換をおこなった(寺井、松村、今井、Suryobroto)。また、全エクソン配列を決定した次世代シークエンス配列を用いて、全個体の系統関係を推定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。その理由を以下に述べる。本計画で最も重要であることは、集団のゲノムの比較により種を分ける遺伝子を特定できる2種を遺伝的に非常に近縁な種を特定することにあった。平成28年度のエキソーム解析により各種11個体を解析に用いることが可能となり、M. tonkeana と M. hecki の2種がほとんどの多型座位を共有していることが明らかになった。この2種が交雑帯において交雑しているとされていたが確実な証拠はなかった。しかし、エキソーム解析から頻繁に遺伝的交流があることが確認できた。種間で完全に分化した座位が存在する遺伝子には毛質に関する遺伝子などがあり、実際に毛質は2種の大きな違いの1つである。この解析を進めることにより、哺乳類で初めてであり霊長類でも初めてである種分化に関与した遺伝子を解明することが可能となると考えている。このような理由から本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度までに主にスラウェシ島のPaluにてサンプル採集を行い、M. tonkeana と M. heckiのそれぞれの種から11個体ずつ(合計22個体)からDNAを抽出を行い、次世代シークエンスライブラリ作製後、エキソンキャプチャを行い全エキソンの配列を決定した。Paluでサンプル採集を行なってきた理由は、2つの種の交雑帯に近接しているためである。 平成29年度は3つの計画を行う予定である。1つ目はこれまで調べてきた2種に加え、もう1種(M. nigra)を解析に加える。M. nigraの分布域でこれまで調査を行ったことのあるマナドのタンココ保護区において10個体を目標にDNAサンプルを採取する。採取は非侵襲的方法で行う。これらのサンプルについては、ボゴール農科大学にてライブラリの作製を行い、エキソンキャプチャ法を介して全エキソンの配列の決定を行う。 2つ目に全エキソン配列を用いて、スラウェシ島のマカクの系統関係を明らかにする。これまでに7種のスラウェシマカクのうち、4種の全エキソン配列を決定している。そのため、残りの3種について上述した方法で各種1-2個体の全エキソン配列を決定する。決定した配列とこれまでに決定した種の配列をプログラム CISRSにより解析して系統関係推定のための情報をもつ座位だけを抽出し、その情報をもとに系統関係を推定する。 3つ目に種間で分化した領域の推定をする。11個体ずつの全エキソン配列を決定した2種では種間で分化した領域がほとんどなく、これにより2種の違いを作り出す遺伝子を推定することが可能である。M. nigraは前述の2種から遺伝的に離れていると予想されるため種間でゲノム全体にわたってある程度の分化がみられると予想されるが、その中でも選択を受けてきた領域を推定する。これらの結果をまとめて2つの論文を作成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度までにMacaca tonkeanaとM. heckiの各11個体ずつのエキソーム解析が可能となったため、1) 他の種(M. nigra)10個体のエキソーム解析と2) スラウェシマカク7種の系統解析のためのエキソーム解析を平成29年度に行うために次年度使用額とした。具体的には、2つの計画のためのインドネシア渡航費および解析の費用が必要となる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度までにMacaca tonkeanaとM. heckiの各11個体ずつのエキソーム解析が可能となったため、1) 他の種(M. nigra)10個体のエキソーム解析と2) スラウェシマカク7種の系統解析のためのエキソーム解析を平成29年度に行う。
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