研究課題/領域番号 |
26304010
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
神谷 隆宏 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (80194976)
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研究分担者 |
阿部 剛史 北海道大学, 総合博物館, 講師 (00301929)
ジェンキンズ ロバート 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (10451824)
山田 敏弘 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (70392537)
SMITH Robin 滋賀県立琵琶湖博物館, 生態系研究領域, 主任学芸員 (70416204)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 北方進出 / 寒冷適応 / 種分化 / 貝形虫 |
研究実績の概要 |
南方起源の熱帯・亜熱帯潮間帯貝形虫の北方進出を検証するため、カナダ西岸バンクーバー島、ハイダグアイ島の潮間帯において研究代表者の神谷と分担者のスミスならびに2名の院生・学生が8月に10日間の試料採集調査を行った。これらの試料からまず貝形虫生体標本を拾いだし、形態的解析を行い、日本周辺から報告されている種と比較した。解析には複数の種の標本を解剖し、生物顕微鏡下で軟体部の詳細なスケッチを行った。その結果、カナダ西岸からはParadoxostoma亜科Boreostoma属に分類される未記載種が3種(P. sp.1, P. sp. 2, P. sp.3)生息することが確認された。これら3種の大顎の底節の剛毛の有無、第二触角第四節外側の剛毛の有無を調べたところ、いずれの3種も大顎底節の剛毛が消失し、第二触角第四節外側に剛毛を有することが判明した。これらの特徴は日本に分布するBoreostoma属4種のうち、子孫的な種で北海道オホーツク海沿岸から東岸親潮域に分布するBoreostoma ussuricum、北海道西岸対馬暖流末端に分布するBoreostoma spineumの特徴と一致することが判明した。この結果は、「日本海で寒冷適応した熱帯・亜熱帯種がさらに種分化、寒冷域に適応・北上し、ベーリング海を超えて北米西岸、北ヨーロッパに分布している」という本研究の作業仮説を実に良く支持するデータとなった。また貝形虫試料のDNA分析にも取り組み、平成27年度中には結果が出る予定である。一方、軟体動物、海藻類についても同様の検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りカナダの現地調査を遂行し、分析用試料を得た。これらを形態解析し、分岐分類法によりカナダ産Paradoxostoma亜科Boreostoma属貝形虫3種の系統を推定した。その結果、日本周辺海域で生じた北方適応種(寒冷適応種)が進化イベントを経て北半球高緯度域に広く分布していることが推定された。これらの成果は、本申請研究における本質的な試料の入手に成功し、当初の作業仮説を第一段階として証明した大きな成果である。これを補足し、強化するために、貝形虫系統関係のDNA解析に基づく系統推定、ならびに軟体動物、海藻類についても研究を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
貝形虫形態解析の分岐分類による系統推定で得た結果を、今後はDNA解析を通して得られる系統関係と比較し、その信頼性を検証する。また、貝形虫以外の複数の分類群(軟体動物、海藻)で同じような進化イベントが確認されれば、日本海という縁海が生物進化においてもつ重要性がより普遍的に証明されることとなる。このように複数の分類群を複数の手法を用いて、さらにカナダ以外の北半球高緯度域の資料を加え、進化イベントの普遍的重要性を検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA分析用の試料は計画通り入手でき、実際に分析を開始したが、近縁種間の関係を探るCO1領域の遺伝子の増幅がまだうまくいかず、予定した実験の多くを遂行することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はDNA増幅の実験に、より綿密に汲み、試行錯誤を経て、CO1領域の増幅、解析をお古合う予定である。これにより繰り越し分額を効果的に利用できると考えている。
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