研究課題
昨年度までの成果としてParadoxostoma属貝形虫の分子系統学的検討により、日本海発祥種が日本海およびその北方海域で多様化し、北方へ進出、現在はその子孫がイギリスやカナダに生息している状況が明らかとなった。しかしながら、この進化イベントが生じたタイミングについては分子時計が有効に使えなかったこともあり、正確に推定できていないという問題点があった。つまり、系統関係の推定に有効な遺伝的解析(18SrNA)には成功したが、もう少し置換速度の速い領域を用いて、分化の生じた時間スケールを論じるまでには至らなかったという結論である。今年度はこの進化イベントの普遍性とタイミングを精査すべく、潮間帯貝形虫Xestoleberis属の日本産種、イギリス産種、フィジー産種の形態を比較検討後、DNA(CO1)を用いて系統推定を行った。しかし、現在までのところCO1領域をターゲットとした分析がうまく進まず、系統を有効に判断する成果は得られていない。今後も解析領域を変えるなどの工夫を通して、分析精度を上げ、ターゲットとした時間分解能に基づく研究成果を得る予定である。また、昨年度までの研究成果を中心に、6月に中国・昆明で開催された第2回アジア貝形虫研究者会議で口頭発表を行った。本成果はアジアから発信された進化事象であることもあり、発表内容は多くの研究者に多大な興味をもって迎えられ、好評を得た。また現在その成果を国際誌に発表すべく執筆準備中である。
2: おおむね順調に進展している
最大の目的である「日本海発祥種の日本周辺北方海域における多様化・寒冷適応と、その子孫種の北方進出」はParadoxostoma属のDNA解析により証明された。すなわち、氷期・間氷期の繰り返した第四紀の日本海が熱帯種を寒冷適応種に変える「進化の工場」として機能していたということになる。今後はその進化イベントの普遍性と生じた時期を特定する研究を進める必要があり、この点だけが不十分といえる。
ここまでの成果をさらに大きな国際会議で発表し、国際的なインパクトを得る。潮間帯貝形虫および他の動植物群の系統関係の調査から、北方進出イベントの普遍性を立証する。具体的にはXestoleberis属貝形虫、海藻類のDNA解析を通して、種分化プロセスを解明し、現在イギリスやカナダ沿岸の生物相の一部が日本海起源であることを確かめる。
今年度はDNAの解析に謝金で補助員を雇い、CO1領域の解析を試みたが、補助員の力量不足でうまく進まなかった。雇用計画を途中で打ち切り、次年度使用額として残した。
次年度使用額と合算し、主に試薬類の購入と新たな補助員の採用に充てる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 10件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 10件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
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