研究実績の概要 |
平成27年度は、米国アラスカ州のアンカレッジを拠点にしてベーリンジアの海岸部とやや内陸部で研究材料を採集した。具体的には、アンカレッジをベースにした往復圏内のやや内陸に入ったエリア、Kenai半島の先端部Homer、西側のKenai、東側のSeqard, Whitterのような海岸沿いの山地である。また、アラスカ湾沿いにさらに南下したCordova周辺の山地でも研究材料を採集した。これによって、本研究課題ではベーリング海に面したアリューシャン列島からアラスカ側の付け根の部位、ならびにさらにアラスカ湾沿いに南下したエリアを網羅して調査することができや。また、ロシア科学アカデミーとオスロ大学の共同研究者からも、周極要素植物の追加サンプルの供与を受けて、解析に加えることが出来た。 系統地理解析においては、アオノツガザクラとその近縁種、エゾツツジ、ミヤマタネツケバナとその姉妹種、ミネズオウにおいてすぐに知見を得ることが出来て投稿を行った。このうちのエゾツツジに関しては論文が受理された。他の論文については、審査中である。これらの植物における共通の知見は、①アラスカからアリューシャン列島を経てカムチャッカ半島まで広範囲に共通の遺伝構造を持っていること、②これに対比して、日本列島の高山帯の集団は、異質な遺伝構造を保有していること、③日本国内では、北側と南側の集団に緩く分化していること、③.①vs②の遺伝構造は最終氷期最寒冷期の最中かその終わりかけの時期(約16,000~10,000年前)に分化を起こし、その後に両方のグループ間では遺伝子の流動が全く存在しなかったこと、が明らかになった。アオノツガザクラにおいては、分布範囲の西南端にあたるアラスカの南沿岸部において、近縁種と部分的な交雑を起こしていることも明らかになった。
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