落葉分解過程は森林生態系の重要なプロセスであり、群集の機能形質の構造や物理環境に強く影響される。東南アジア熱帯林の生態系機能を広域で評価するためには、湿潤-乾燥という気候傾度に加え、二次林化による群集の形質構造と物理環境の変化が落葉分解に影響するメカニズムの包括的な解明が必要である。この研究では、1)湿潤熱帯林では二次林化に伴う光獲得競争の激化に応答し、成長速度が速く分解しやすい落葉を生産する種が増えるため、落葉分解は促進される2)乾燥熱帯林では二次林化に伴う乾燥ストレスの増加に応答し、乾燥耐性が高く分解しにくい落葉を生産する種が増えるため、落葉分解は抑制される、という2つの仮説を、二次林化に伴う物理環境変化の影響も考慮して検証することを目的とした。 平成28年度は、湿潤-乾燥傾度に沿った湿潤常緑林、混交乾燥林、乾燥常緑林、乾燥落葉林の4カ所で行なっていた落葉分解実験および落葉量調査を終了した。これまでの調査から、地温や土壌水分含量など、落葉分解を規定する微環境は二次林化に伴い大きく変化し、その変化は森林タイプによって異なることが分かっている。各森林タイプに出現する15種を原生林と二次林の両方で分解させた場合、分解速度は混交乾燥林、湿潤常緑林で他の森林タイプより速いが、原生林と二次林の間には違いが見られなかった。つまり、二次林化に伴う微環境の変化は落葉分解に大きくは影響せず、むしろ二次林化に伴う群集の形質構造の変化が森林の落葉分解過程の変化を主に規定すると考えられた。二次林化に伴う群集の形質構造変化は森林タイプによって大きく異ならなかったため、二次林化が落葉分解に及ぼす影響は湿潤熱帯林、乾燥熱帯林ともに大きく異ならないと予測された。
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