研究課題/領域番号 |
26304016
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋田 正和 東京大学, 大学院情報学環, 教授 (40178950)
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研究分担者 |
藤井 義晴 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10354101)
徳永 幸彦 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (90237074)
津田 みどり 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20294910)
中野 伸一 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マメゾウムシ類 / マメ科 / 乾燥完熟種子利用 / 毒物質 / アレロパシー / 分子系統解析 / 寄主シフト / 適応戦略 |
研究実績の概要 |
代表の嶋田は、Callosobruchus subinnotatusが多様な乾燥完熟豆種を食べて育つことを発見した。食べて育つ豆種は、Cicer属、Lens属、Phaseolus属、Vicia属、Pisum属。ただし、Phaseolus vaulgaris (金時豆)は育たない。共同研究者の松井健二(山口大学)・穴井豊昭(佐賀大学)が遺伝子組換えを用いない逆遺伝学的方法であるTilling法で育成したダイズ(Glycine max)をC. subinnotatus が食べて育つかを観測した。その結果、マメゾウムシ類の成長を抑える毒性のあるリノール酸・リノレイン酸への代謝を抑制したダイズからは、C. subinnotatusは早く大きく羽化することが分かった。 分担者の藤井はロシア南部コーカサス地方、イラン東部、ペルーアマゾン、中国雲南省等においてマメ科を中心とした植物のアレロパシー活性を測定した。活性の強い植物についてはその成分を分析した。 分担者の徳永はマメゾウムシ研究に必要な統計手法の特集をまとめ発表した(Popul. Ecol.誌に発表)。年度末(3/12-16)にはインドネシアのバリ島において、食用豆類を食害するマメゾウムシの採集を行った。これら成虫から「分布の端」となる実験個体群系統を確立中である。 分担者の津田は欧州産Bruchus属マメゾウムシの雌を誘引・産卵誘発する化学物質を特定するため、寄主植物の莢表面に多く含まれる鎖式飽和炭化水素の化学物質種で選択行動実験を行い、滞在時間延長には2種の混合、産卵誘発には物質Aが効果を発揮することを解明した。 分担者の中野は研究員・大林と共同で、京大生態研センターで所有する全国共同利用施設の高性能シーケンサーABI 3730 を利用し、嶋田と特任研究員・加藤と共同で、新大陸産マメゾウムシ類のDNA配列を用いた分子系統解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表の嶋田は「Callosobruchus subinnotatusの乾燥完熟豆利用と毒物質耐性に伴う広食性の進化」のサブテーマを確立し、さらに嶋田は修士課程院生・萩原の研究室配属を得て、中野と協力者の大林による「サイカチマメゾウムシ(Megabruchidius dorsalis)の完熟乾燥種子利用と繁殖戦略の進化」で新たなサブテーマを進展できた。また、分担者の藤井によるマメ科植物のアレロパシーの化学分析、徳永によるマメゾウムシ類の分布周辺における戦略の実験系確立、津田によるBruchus属マメゾウムシ雌の寄主植物への誘引と産卵を促す化学物質の解明では、それぞれ新しい実験系の確立、データ取得、論文を発表し、期待以上の成果を出した年度である。一方、嶋田、と大林、加藤による当初の中心テーマである新大陸産マメ科・アオイ科の毒物質を含めた系統進化の解析については遅れており、研究の進展ではサブテーマごとに凸凹が際立った年度でもある。一部に遅れた理由は、協力者の加藤特任助教の任期切れ退職と就職活動などで、研究時間をなかなか確保できなかったことも一因である。ただ、嶋田が大林の協力を得て、全国共同利用施設である京大生態研センターの協力研究員となり、センターの高性能シーケンサーを使える状況になったため、DNA配列が読めていなかった新大陸産マメゾウムシ類を加藤を助けて一挙に読めたことで、あとは大林と加藤とで分子系統解析を進展するところまで来たのは、明るい点である。よって、総合的に判断すると、サブテーマごとに凸凹はあるものの、全体としての平均的な評価は概ね順調と位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、まず嶋田と中野、大林、加藤(4月から特任研究員で1年間採用)グループが手掛ける中心テーマ「新大陸産マメゾウムシ類の寄主植物に対する乾燥完熟種子利用と毒物質耐性でみた系統対応」については、Acanthoselidini族に含まれるAcanthoselides属、Mimosestes属、Merobruchus属、Sennius属など、手元にある分子系統情報を整理する。それと並行して、マメゾウムシ類が利用するマメ科・アオイ科植物の各系統が含む毒物質を、藤井のGC-MSによる分析や文献情報によって可能な限り特定していく必要がある。これにはマメ科植物の他感作用(アレロパシー)の毒物質データベースが有効であろう。そこから得られる寄主植物の毒物質情報と乾燥完熟種子利用の生活史情報を、マメゾウムシ類の分子系統樹上に配置することで、マメゾウムシ類のどの系統群はどの寄主植物を利用しているかの系統解析を発展させる。その先に、中心テーマである「マメゾウムシ類をモデルとした場合、植食性昆虫はどの程度系統的に頻繁に寄主植物を変える(寄主シフト)だろうか?」の課題について定量的に解明できる。また、嶋田の「C. subinnotatusによる乾燥完熟種子利用と毒物質耐性による広食性の進化」、嶋田・中野・大林の「サイカチマメゾウムシの乾燥完熟種子利用と繁殖戦略」、徳永の「分布周辺の集団の解析」や津田の「地域内での種分化と大陸間移動の相対的重要性の解析」などのサブテーマを進めることで、野生マメゾウムシ類が持つ乾燥完熟種子利用による多化性の進化と毒物質耐性の系統的寄主シフト要因が、マメゾウムシ類の一部が世界汎種へと進化して行った点についての適応戦略の考察が発展すると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の試薬が想定よりも高額であったため予算内に収まらず購入できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の配分額と併せて試薬を購入して実験を開始する。
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