研究課題/領域番号 |
26304017
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
原田 光 愛媛大学, 農学部, 研究員 (40150396)
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研究分担者 |
上谷 浩一 愛媛大学, 農学部, 准教授 (80638792)
大久保 達弘 宇都宮大学, 農学部, 教授 (10176844)
原 正利 千葉県立中央博物館, 自然科学系, 研究員 (20250144)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 東南アジア / 熱帯多雨林 / フタバガキ科 / ブナ科 / 氷河期 / 系統地理学 / 遺伝子マーカー / 生物多様性 |
研究実績の概要 |
本研究では東南アジアの熱帯雨林について、低地常緑樹林と高地常緑樹林のそれぞれを代表するフタバガキ科樹木およびブナ科樹木を対象にして遺伝子解析を行い、熱帯林の生成過程を明らかにすることを目的にしている。前者について原田と上谷が、後者については大久保と原が担当する。 原田は2014年6月にインドネシア・ボゴール農科大学に出張し、カウンターパートであるIskandar Z. Siragar博士とフタバガキ科およびブナ科樹木種の採集地の検討および調査許可に関わる手順について協議した。2015年3月に原田と上谷はSiragar博士と再度協議すると共に、 スマトラ島北部ブキット・ラワン国立公園およびジャワ島西部グヌン・ゲデ国立公園の現地調査を行った。この結果、前者ではフタバガキ科樹種及びブナ科樹種が、また後者ではブナ科樹種が豊富に存在する事が明らかになった。また2015年度以降に予定している調査地の調査許可はすべて取得することが出来た。一方で、これまでに採集し、DNAを保存しているリュウノウジュ属樹種についてマイクロサテライトの遺伝的変異の解析を行い、論文にまとめた。 大久保と原は、2014年8月にマレーシア・サラワク州のボルネオハイランドにおいて、森林植生の概況およびブナ科植物の分布(垂直分布含む)について調査した。46点のブナ科植物の標本、およびDNA解析用の葉のサンプルとして、カクミガシTrigonobalanus verticillata 30点、その他のブナ科植物8点を収集した。また、同所からは、ボルネオ初記録となるCastanopsis inermisや、サラワク州では分布の限られていたC. evansii、Lithocarpus kenningauensis、L. palungensisなども採集され、同所が植物地理学上、注目すべき場所であることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フタバガキ科樹木については原田と上谷はスマトラ島の調査予定地でフタバガキ科樹種の存在を確認したが、採集には至らなかった。これは2014年度中にインドネシアでの調査及び採集許可が得られなかったからである。その間にこれまでに採集済みの材料を用いてマイクロサテライトの遺伝子解析を行い、ベイズおよびコアレッセンス理論にもとづく計算統計学的手法を適用してリュウノウジュ属の最終氷河期前後の集団動態について明らかにすることが出来た。この結果は現在、インターナショナルなジャーナルであるEcology and Evolution誌に投稿中である。現地調査および採集は次年度に集中的に行うが、研究計画全体の上では概ね順調に進展しているといえる。 大久保と原はサラワク州クチン近郊のボルネオハイランドにおいて高地常緑樹林を調査し、現地で採集した樹木種に初同定のブナ科樹種が多数含まれることを見出し、同所がブナ科樹木の分布上、極めて注目すべき場所であることを明らかにした。特にカクミガシの分布が新たに見出されたことは特筆される。現在採集した種の同定を進めているところであり、ほぼ初年度の予定を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
原田と上谷はインドネシアにおける調査許可を取得できたので、2015年度はスマトラ島を中心にフタバガキ科樹木種の採集を積極的に行う。インドネシアからの生物材料の日本への持ち帰りは規制されており、新たな許可が必要である。今後これへの対応を協議する必要があるが、この問題をクリアするために現地でのDNA抽出および基礎的な遺伝子解析を可能にする事が望ましい。そのため今年度はIskandar Z. Siregar博士の実験室で、学生指導を含めてDNA抽出および遺伝子解析システムを作る予定にしている。また、これまでに採集済みのフタバガキ科樹木サンプルについては、近年、新しい解析方法が開発されているのでこれを適用するなどして、より多面的な遺伝子解析を進める。 大久保と原は昨年度に引き続いてボルネオ島、グヌン・ムルドを中心にブナ科樹木種の分布調査とサンプル採集を行う。2014年度に採集したサンプルについてはDNAの抽出と種同定を完了する。これまで採集したサンプルを用いて原田・上谷と共同で東南アジアのブナ科樹種の分子系統樹作成に着手するとともに、他所での種分布と比較し、ボルネオ島におけるブナ科樹木種の生物地理学的な位置付けとその植生の生成要因について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
原は体調不良により、2014年11月14日~2015年4月17日まで入院および自宅療養の止む無きに至り、標本や調査結果の解析が中断した。これにより2014年度については予算残が多く生じた。 大久保は次年度の調査に本年度以上の費用がかかることが見込まれたため必要額を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
原は2015年度は、前年度、中断した標本や調査結果の整理、解析を進めるとともに、2015年度採集の標本、サンプルについても整理、解析する予定である。 大久保は2015年度にサラワクで2カ所以上の調査を予定しており、そのための旅費、人件費、その他経費に使用する予定である。
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備考 |
原は採集した標本や写真を活用して、2014年11月1日~12月14日の日程で、千葉県立中央博物館で「どんぐりの世界」展を開催し、8,005名の観覧者を得て好評を博した。
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