本研究は,高緯度北極に位置するノルウェー国スバールバル諸島ニーオルスン近郊の氷河後退域において,環境条件と硝化特性(硝化能,硝化微生物フロラ)との関係,氷河後退年数が異なる複数地点のクロノシーケンスによる硝化特性の遷移速度,そして,加温処理に対する硝化特性の遷移速度の応答などを解明することを目的とした.最終年度に当たる平成30年度は,7月14日~7月25日および8月7日~8月22日にかけて現地に赴き,以下の調査を実施した. 硝化特性の遷移と加温の影響: 東ブレッガー氷河後退域に国立極地研究所が設置した囲い地のうち2箇所(サイト1,サイト2)のそれぞれに平成27年度調査で設置した調査プロット(加温処理区1+対照区1)において,加温用オープントップチャンバーのメンテナンス,土壌水分・地温データの回収,センサーとデータロガーのメンテナンス,および平成27年度調査で各区に設置した均質化土壌コア群から加温区と対照区各3本の土壌コア回収を行った.土壌コアを表層(0-2cm)と下層(2-4cm)に切り分けて冷蔵で日本に持ち帰った(植物防疫法に基づく輸入許可済).土壌試料の一部を硝化能の測定に供し,別の一部を今後の微生物解析のために凍結保存し,残りを風乾して土壌理化学性の分析試料とした. 氷河後退域の氷河~下流河川の窒素同位体比の調査: 東ブレッガー氷河および西ブレッガー氷河とのその下流流域を対象に氷,雪,および河川水のサンプリングを行い,これらの安定窒素同位体比の分析試料とした. 分解者として窒素循環に関わる真菌類の調査: ニーオルスン近郊において真菌類のサンプリングを行い,種の同定の分析試料とした. また,海鳥が営巣する崖下の斜面(崖錐)土壌がきわめて高い脱窒能を有し,野外条件においてN2Oを放出していることを論文として公表し,プレスリリースを行った.
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