研究課題/領域番号 |
26304026
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
安江 恒 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (00324236)
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研究分担者 |
城田 徹央 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (10374711)
檀浦 正子 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (90444570)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気候変動 / 周極域 / 年輪年代学 / 永久凍土 / 土壌呼吸 / アロメトリー / 気候応答 / 13Cラベリング |
研究実績の概要 |
永久凍土分布南限に近いモンゴルにおいて,凍土深が異なると予想される北向き斜面上部および下部において採取したカラマツ(Larix sibirica)およびゴヨウマツ(Pinus sibirica)計107個体の年輪幅および年輪内密度値を測定し,気候応答解析を行った。その結果,両樹種において共通して前年春の降水量の増加が最も主要な成長制限要因であり,その影響は斜面下部で顕著であった。併せて,乾燥地域であるにもかかわらず夏期の降水との相関もほとんど認められなかった。雪解け期の過湿ストレスや降水が制限要因となっていない事が示唆された。林冠部の構造について平成27年度から大,中,小の個体を設定し,アロメトリーを用いた葉量モニタリングを開始した。平成28年度には,同地域でマイマイガ(Lymantria dispar asiatica)が大発生した。この食害の程度を,春先に作られたシュート数と食害を受けたシュート数の被率を用いて評価できた。食害の程度にサイズ依存性が確認でき,選択的に小さなサイズの個体の衰退を促進させ,疎開した林分構造を形成させる要因と考えられる。 アラスカ内陸部においては,13Cパルスラベリングを実施、土壌呼吸における樹木由来のCO2放出量を推定するために土壌からの二酸化炭素ガスサンプルを採取し、同位体比を測定した。ミキシングモデルから土壌呼吸に占める根呼吸の割合を評価したところ,その値は樹木に近いほど大きく、0-40%の分布であった。また,ブラックスプルース(Picea mariana)の地下部の成長過程を,年輪を用いて復元した。その結果,下部ほど近年の成長量が少なく,年輪幅はある時期を境に急激に狭くなった。また,側根の発生位置は年代を追って上昇していた。地下部の肥大成長速度や側根の発生位置は有機物層の発達(コケの成長)に伴う地温の低下に規定されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
樹幹および根の成長制限要因については,年輪気候学的手法を適用し,予定どおり試料採取および気候応答解析を行った。アラスカの永久凍土地位に生育するブラックスプルースでは,春期の高温が抑制的に働くことをあきらかにし,カナダの非永久凍土地帯におけるブラックスプルースとは全く反対の反応で有ることが明らかになった。モンゴルのカラマツにおいては,雪解け期に過湿ストレスがある可能性,降水が制限要因となっていない地域があることをあきらかにした。 樹冠部の成長および構造解析においては,葉量等の継続的モニタリングを継続し,樹冠部成長の可塑性に関する結果が得られてきている。制限する環境要因について気象のみならず虫害が要因として浮上し,変動メカニズムに関する新たな知見を得つつある。 炭素同位体ラベリングについては,アラスカ内陸部Caribou Poker creek Research Watershedにおいて、現地研究機関(Prof. Roger Ruess, Univ. Alaska)の協力を得つつ,5月,7月,9月と異なる季節にラベリングを行うことが出来た。翌年度に収穫し,解析に供するめどが立っている。 各調査地における個別観測や解析において順調に研究遂行が出来ていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
モンゴルにおいては,平成29年度もモニタリング調査を継続する。マイマイガの発生は連年生じることもあるので,その場合には2年目の食害が1年目と同様にシベリアカラマツの個体サイズ依存性を示すのかどうかを明らかにする。昨年単年度の発生である場合,平成29年度は同じ調査によって食害からの回復過程を明らかにできる。また,樹冠部における変化が年輪に反映される過程をあきらかにするため,追加のコア試料採取を行い比較すると共に,環境変動が樹冠部(生産部位)を経て木部形成に影響する過程を統合的に解析する。 アラスカにおいては,地下部温度の経年変化が成長に大きく関与していることが示唆されたため,地温条件の異なるカナダウッドバッファロー国立公園において試料採取と比較研究を行い,地温の及ぼす影響を評価する。また,年輪気候学的手法により,主要な気候制限要因(春の気温)が明らかになってきているが,13CO2付加実験の結果と併せてメカニズムに関する考察を行う。具体的には,2年にわたる付加実験を行った供試木を収穫し,同位体測定を行うことにより,光合成生産物が樹幹形成に使われる過程の追跡を行う。 以上により得られる各生育条件や樹種ごとの特長について,地下部を含む環境変動が樹木の地上部および地下部に及ぼす影響を比較整理する。特に永久凍土の影響が大きいことが示唆されて来ていることから,永久凍土の有無による今後の成長予測を試みる。 得られる成果については,公開の研究集会を実施し成果公表を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査旅費については航空運賃が予想より安く抑えられたため,人件費については予定より順調に測定が進み必要がなかったため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
h29年度請求額と合わせて永久凍土地帯であるアラスカとの比較検討のためのカナダ北部における海外調査旅費として使用する。
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