研究課題
1.DNA バーコードデータの整備と分子系統樹の構築:面積52ヘクタール調査区内から、77科228属796種について各種1~7個体の葉サンプル採取を完了した。各個体の標本を3つに分け、調査地のフィールド標本庫、クチン市の植物研究センター、大阪市立大学のそれぞれに保管した。228属の各1種からDNAを抽出し、葉緑体3領域(rbcL、matK、trnH-psbA)をPCRで増幅した。matK、trnH-psbAについては、PCRが上手く行かないサンプルが少なくなかったため、各属に適切なプライマーの設計を行った。rbcLについては、ほとんどの属でPCRが成功したため、塩基配列を決定し、属レベルの分子系統樹を作成することができた。2.長期動態データの整備と各種のニッチ評価:ダイン船籍調査区の4度目の再測定を開始した。サラワク森林局とCenter for Tropical Forest Science(アメリカ合衆国)の研究者と共同して毎木調査を開始し、H27年度中に約10haの再測定を完了した。得られたデータは、順次データベースに入力している。3.ニッチ保守性の検証:昨年度に引き続きH27年度も、調査地で開花結実がみられず、十分な実生個体を確保することができなかった。そのため、計画を変更し圃場栽培実験を取りやめ、既存の野外実験(実生移植実験)、および、稚樹調査区を用いた研究に切り替え、実生、および、稚樹期の局所的な系統多様性と死亡率、成長率の関係を解析した。4.群集全他のニッチ保守性の検証:rbcLの塩基配列に基づいた属レベルの系統樹、および、昨年度にPhylcomを用いて推定した種レベルの系統樹を使って、各種の繁殖様式(両全性、雌雄異花同株、雌雄異株)、および、萌芽能力についてニッチ保守性を解析した。その結果、いずれの形質についてもニッチ保守性が認められた。
2: おおむね順調に進展している
1.大面積調査区の個体位置データを利用することで、個体数の少ない種についても葉のサンプリングを効率的に進めることができた。全体(1162種)の2/3の種についてサンプル採取が完了し、残る390種のほとんどは個体数10個体未満の稀な種である。また、全種のサンプルを日本に持ち帰り、属レベルでのDNA抽出とrbcLの塩基配列決定を完了でき、群集全体の分子系統樹を試作することができた。matK、trnH-psbAのPCRについても多くの属で成功しつつあり、さらにDNA抽出と塩基配列決定を進めれば、種レベルで群集全体の分子系統樹が作成できる。2.当初の予定よりやや遅れたが、大面積調査区の再測定を開始することができた。作業量が膨大であるため、完了までにはさらに1年近くの期間を要すると予想されるが、順調に進めば来年度中には毎木調査を完了できるだろう。また、野外調査と並行してデータ入力を進める体制を構築したため、データベース完成までの時間をこれまでより短縮できると期待される。3.調査地では開花・結実が2年続けて起きなかったため、当初予定していた圃場栽培実験に必要な苗が確保できなかった。そのため、計画を修正し、以前から続けていた野外実験(実生移植実験)と稚樹調査区を使った研究計画に変更した。来年度に追加の測定と解析を実施することで、当初の目的の一つである、実生・稚樹期の系統多様性と生存・成長の関係についても解析可能であると考える。4.種のニッチ形質として、新たに繁殖様式と萌芽能力のデータを整備し、群集系統樹を用いたニッチ保守性の解析手法を確立した。次年度、より詳細な分子系統樹が得られれば、多様なニッチ形質について系統保守性を解析し、最終的に群集全体のニッチ保守性を評価することができると考えられる。
1.引き続き葉のサンプル採取を進め、来年度中にできる限り全種のサンプル採取を目指す。全サンプルからDNAを抽出し、各種少なくとも1個体について葉緑体DNA3領域(rbL、matK、trnH-psbA)の塩基配列を決定し、群集全体の分子系統樹を作成する。2.大面積調査区の再測定を継続し、H28年度中の完了を目指す。データ入力を並行して進め、森林動態データベースの充実を図る。3.実生移植実験、および、稚樹調査区の追加測定とデータ解析を進め、実生・稚樹期のニッチ保守性を明らかにする。4.最終的に得られる分子系統樹と様々なニッチ形質データを使って、群集全体のニッチ保守性を明らかにする。また、すべてのデータを総合して、熱帯雨林の保全指標として系統多様性が有効であるかどうか議論する。
matK、trnH-psbAのPCRが多くの種上手くできず、これら遺伝子座の塩基配列決定を進められなかったため、こらの必要経費として予定していた試薬、謝金、外注費の一部を支出しなかったため。
すでに、多くの種についてmatK、trnH-psbAの新しいPCRプライマーを設計し、有効性を確認している。次年度中にこれらの種についてもPCRと塩基配列決定を行う。残額は、そのために必要な分析経費(試薬、謝金、外注費)として、次年度予算と合わせて使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Forest Ecology and Management
巻: 356 ページ: 153-165
10.1016/j.foreco.2015.07.023
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 112 ページ: 7472-7477
10.1073/pnas.1423147112