研究課題/領域番号 |
26304031
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小池 一彦 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (30265722)
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研究分担者 |
冨山 毅 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (20576897)
圦本 達也 独立行政法人国際農林水産業研究センター, 水産領域, 研究員 (90372002)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミャンマー / 海洋環境 / 基礎生産 / 植物プランクトン / ミエック |
研究実績の概要 |
平成26年度は12月6日から16日にミャンマーに赴いた。この期間中,9日から13日までミエックを訪れ,雨季直後の海洋調査を行った。また,3月25日から4月3日までミャンマーを訪れ,このうち,3月27日から4月1日までミエックにて乾季終期の海洋調査を行った。雨季直後の12月は,予想に反して植物プランクトンの量が少なく,クロロフィル量は0.2~7.2マイクロg/Lと低かった。また,PAM蛍光法で測定した基礎生産速度は280~3100 mg/m2/dayと比較的低かった。これは雨季直後とはいえど河川流量が多く,濁水が海洋に流れ込み,有光層が極めて浅い(3.5~15.2 m)ことによるものと,植物プランクトンの低活性(Fv/Fmとして0.32~0.58)によるものだと思われた。よってこの時期は河川からの栄養塩が多いものの,高濁度環境によって植物プランクトンの基礎生産が阻害されているものと思われた。しかしながら,溶存態有機物の濃度が極めて高く(4.7~18.0 mg/L),それを利用するバクテリアの数も1.0 x 10^6~2.0 x 10^7 cells/mlと一般の沿岸域よりも1桁~2桁ほど高く,このような溶存態有機物から始まる微生物食物連鎖が植物プランクトンの基礎生産を補完しているものと想像された。一方,3月においては,クロロフィル量は1.0~6.4マイクロg/Lとそれほど12月の調査時と大きくは変わらなかったが,基礎生産速度は770~4798 mg/m2/dayと12月の1.5倍程度高い数値を示した。実際,植物プランクトンの活性は高く,Fv/Fm=0.45~0.68と1.5倍程度の上昇を見せた。加えて,雨季後の大河からの濁質流入が低下し有光層が5.6~32 mと深くなったことも大きく寄与している。3月には溶存態有機物は2.1~4.3mg/Lと12月に比べ大幅に低下した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
未だ外国人が自由に調査を行うことが難しいミャンマーにおいて,現地の水産局と大学等との信頼関係を築くことができ,2回もの調査を行うことができた。海洋調査には海軍の許可が必要になるなど,調査データそのものに現れないエフォートが大きいことも特記すべきだろう。これらの調査によって,これまで季節性がないと思われてきた熱帯大陸沿岸においても,雨季~雨季後~乾季にかけて明瞭な基礎生産のパターンを示すことがわかった。雨季後には植物プランクトンによる基礎生産が低いが,溶存態有機物から始まる微生物食物連鎖が卓越すること,その後,海水の清澄化にともない,普通の基礎生産へと移行することなどである。雨季直後の微生物食物連鎖には,溶存態有機物の溶出源としてマングローブ底泥などの貢献も大きいだろう。すなわち,ミャンマー特有の季節性,大河,マングローブ,アンダマン海などがそれぞれ複雑に絡み合って,この地の豊かな海洋生産性を支えていることがわかってきた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は5月にミャンマーを訪れ,ミエック市において漁獲調査を行う。過去の資料と合わせ,漁獲の推移・懸念を洗い出す。また,これまで旅行のアレンジが難しかったこともあり,雨季途中での調査を行っていなかったが,平成27年度は9月に調査を計画している。それに加え12月および3月にも前年度同様の調査を行い,これまでに得た基礎生産の傾向を確認する。さらに,これまでの研究でマングローブ底泥からの溶存態有機物が微生物食物連鎖の開始となっている可能性が示唆された。ミャンマーではマングローブ林が急速に減少している。もしマングローブ林の保全が海洋基礎生産(=漁業生産に直結)に寄与していることをデータとして示すことができれば,この国のマングローブ保全にも貢献することができるだろう。この調査においては,データーを出すこと以外にも,日本の海洋系分野ではじめて現地水産局および大学とのコラボレーションを行っていることも貢献の一つとしてあげられると自負している。今後もこの様な連携を深め,ミャンマーと日本の学術交流の礎を築きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた地域のうちミエックのみでしか重点調査を行っていない事による。
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次年度使用額の使用計画 |
政治的理由により予定していたラカイン地方での調査ができなかった。引き続きラカインでの調査を検討するが,政情により難しい場合は,ミエックでのより深度の高い調査を行うために支出する。
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