研究課題
単包条虫と多包条虫を含む異種のエキノコックスが混合分布する中国青海省において、エキノコックス症の疫学解析と制御法の確立を目的に、以下の調査を行った。1)感染源対策実施時における生活環や感染経路に対する遊牧民への教育の重要性を評価するために、興海県において3つの遊牧民集落を選定した。3集落に属する家族数は計92家族でこれらの家族が飼育する102頭の犬のうち33頭からテニア科条虫卵検出された。3集落の陽性率は24-31%で、集落間で大きな差はなかった。感染種については現在遺伝子同定を行っている。アンケート調査では、3集落とも64%以上の家族がエキノコックス症について何も知らない状況であった。2)家畜診断法の信頼性を評価する目的で、青海省のと畜材料および羊生体を用いてDot-ELISAによる血清抗体検出法および超音波診断法を試みた。2法を組み合わせることにより、大きなシストを持つ羊の検出が可能であることがわかった。3)動物と人の間の伝播リスクを解析するために、遊牧民の居住テント周辺の犬とキツネの糞の分布をライントランセクト法により調査したところ、犬の糞はテント近くに多く、キツネの糞はテントから離れて分布していた。また、キツネ巣穴に設置したカメラトラップにより、犬はキツネの巣穴付近に日中に訪問すること、キツネは主に夜間に活動し日中に活動するナキウサギと異なるが、両者の重複率は0.406と比較的高かいことがわかった。4)エキノコックス症の治療に有望なリード化合物を探索する目的で、多包条虫のエネルギー代謝に必須なフマル酸呼吸系の末端酵素である複合体Ⅱ(EmQFR)を特異的に阻害する化合物のスクリーニングを試みた結果、トリパノソーマの末端酸化酵素阻害剤であるFerulenol、Ascofuranone(AF)およびその誘導体がEmQFRを特異的に阻害する事を見出した。
3: やや遅れている
調査初年度に計画していた疫学調査については、教育駆虫群、駆虫群、無処置群の3 群を各群複数集落で比較する予定であったが、調査地選定の調整に時間がかかり、本年度は興海県の3集落の調査に留まった。また、材料検査についても担当する大学院生の検査技術の習得に時間を要し、検査がやや遅れている。人と犬の行動解析および感染リスク解析については、中国側でGPSの使用が認められず、手作業によるマッピングに切り替えて実施した。その他の計画についてはおおむね計画通りに進んでいる。
平成27年度に、感染源対策評価候補地として、海宴県の3集落を追加する予定で、教育駆虫群、駆虫群、無処置群のそれぞれに2集落を配置し、感染源対策における教育の効果を評価する予定である。また、人と犬の行動解析および感染リスク解析におけるGPSの使用については、引き続き中国側と協議を継続する予定であるが、GPSの使用が認められない場合は、平成26年度と同様に手作業によるマッピングを行う。家畜診断法については、羊100頭を対象に血清抗体検査を行って、陽性個体を対象に超音波検査を行い、単包虫検出における信頼性を評価する。治療薬開発については、平成27年度は昨年度に引き続き、多包条虫感染マウスに対する効果を検証し、平成28年度に青海省の単法虫感染羊を用いた評価を行う予定である。
平成26年度に採集した材料の検査を年度内に完了できなかったため、未検査材料の検査に要する経費を次年度に持ち越した。
平成26年度に採集した材料の検査に使用する。
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