研究課題
中国青海省において、エキノコックス症の疫学解析と制御法の確立を目的に、以下の調査を行った。1)感染源対策における遊牧民への教育の重要性を評価するために、昨年度に引き続き興海県において3つの遊牧民集落を調査した。本年度は134頭の犬の検査を実施した結果、29頭からテニア科条虫卵が検出された。Multiplex PCRにより、単包条虫が8頭、テニア属条虫が25頭から検出され、そのうち4頭は単包条虫とテニア属条虫の混合感染であった。昨年度と同様に3集落の陽性率に大きな差はなかった。この3集落を対象に駆虫試験を開始した。これと平行してLAMP法を基にしたテニア科条虫の新たな種同定法の開発に着手した。2)と畜場で得た材料を使用してDot-ELISAによる血清抗体検出法の反応条件の改善を行い、農家の羊65頭の検査を行って15頭の強陽性を得た。このうち6頭に対して超音波検査を行なったが単包虫シストは検出されなかった。3)9テントを対象にライントランセクト調査を実施した。草の高さ、ナキウサギの巣穴の数などを記録するとともに53個の犬科動物の糞便を採取した。現在データ解析中である。また、人のエキノコックス症の高度流行地である玉樹市称多県珍秦鎮において、犬のセンサス調査により放し飼い犬96頭および寺院で19頭の放し飼い犬を確認した。これらの犬は野生齧歯類や家畜の死体を採食すると考えられ、人への感染源として重要な役割を担っていると考えられた。4)多包条虫のミトコンドリア呼吸鎖をターゲットとした薬剤開発では、低酸素下の培養系では原頭節がフマル酸呼吸を行うため、複合体IIとIIIの両者を薬剤標的とする方が効果的であることが判った。次に培養系で有効であったアスコフラノンや新規化合物Aを用いて、多包条虫の虫卵を感染させたマウスで比較したところ、新規化合物Aでは明らかなシスト形成の低下を認めた。今後、新規化合物Aの臨床応用に期待できる。
2: おおむね順調に進展している
調査地選定の調整および遊牧地での材料採取にかなりの時間を要することがわかったため、対象集落を増やすことを断念し、昨年度選定した興海県の3集落のみを対象に駆虫試験を開始した。昨年度と今年度の調査結果では、この3集落間に犬のテニア科条虫感染率に有意な差がなく、駆虫試験の対象として適当であることを確認した。人と犬の行動解析および感染リスク解析については、昨年度と同様に中国側でGPSの使用が認められず、手作業によるマッピングに切り替えて実施した。その他の計画についてはおおむね計画通りに進んでいる。
平成28年度に、興海県の3集落において感染源対策評価を行う予定である。また、現場で行える迅速診断法としてLAMP法を基にしたテニア科条虫種同定法を開発し、野外調査に適用する予定である。また、人と犬の行動解析および感染リスク解析におけるGPSの使用については、引き続き中国側と協議を継続する予定であるが、GPSの使用が認められない場合は、平成27年度と同様に手作業によるマッピングを行う。家畜診断法については、羊100頭を対象に血清抗体検査を行って、陽性個体を対象に超音波検査を行い、単包虫検出における信頼性を評価するとともに、感染羊を確保する。治療薬開発については、マウス-多包条虫in vitro実験系を用いて新規化合物Aの有効性をさらに検証するとともに、青海省の単包虫感染羊を用いた評価を行う予定である。
当初計画で計上した人件費・謝金を使用せずに研究が遂行できたことと、研究遂行に必要な試薬類の支出を少額に抑えることが出来たため。
研究遂行に必要な試薬類の購入に充てる。
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Nat. Rev. Drug Discov.
巻: 14 ページ: 751-758
日本獣医寄生虫学雑誌
巻: 14 ページ: 76-82