研究課題
2015年8月に薬用植物の栽培化試験の候補地(Tistung Botaical Garden)を視察し、2015年10月から試験栽培を開始した。現在,Swertia chirayito,Paris polyphylla,Aconitum sp.などネパール産薬用植物のほか、Crocus sativus、Panax ginseng、Scutellaria baicalensis、Platycodon glandiflorusなどの試験栽培を行っている。現地共同研究者が毎月圃場を訪問し、栽培指導と生育状況の把握を行っている。2016年2月にカトマンズを訪問し,2016年8月予定のフィールド調査について植物資源局と打合せを行い,圃場を視察して試験栽培の進捗状況を確認した。2015年8月にダマン地域を中心に植物調査を行い、シダ類3種(Aleuritopteris bicolor, A. albomarginata snd Drynaria sp.)及び Swertia 属1種(S. alata)を採集し、成分研究のために抽出エキスを作製した。シダ類では、A. bicolor の成分検索を行い、主成分として、セスターテルペノイド である cheilanthenetriol を単離した。また、S. chirayita から xanthone 類の他に本属特有の特異な骨格を有するトリテルペノイドが得られており、同時に多種類のトリテルペノイド酸化合物を単離、構造決定した。ネパールを中心に東南アジア地方で採取したシダ類を中心とした植物由来化合物50種類について、TGF-βシグナル並びにYAPシグナル制御活性の検討を行った。その中で化合物25が既存YAPシグナル抑制化合物Verteporfin (VP)より強くYAPシグナルを抑制した。さらに中皮腫細胞の細胞増殖を抑制することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
ネパールは古くから薬用植物の宝庫とされてきたが,野生植物資源の枯渇が危惧されている。今回,ネパール植物資源局と共同で有用薬用植物資源の栽培化試験を開始することができた。まだ種類は少ないが,一つでもネパール原産の有用植物の栽培化法が確立でき,その技術が地域住民に普及できれば,貴重な有用植物資源の保全と継続的有効利用への道が開けるものと考えている。2015年4月にネパールを大地震が襲い,当初予定したフィールド調査を実施できなかったのが残念である。ネパールにおける現地植生調査及び植物サンプルの採集が行い、ネパール植物資源局との覚書に基づき植物サンプルの日本への持ち出しを適正に行えている。入手した植物は、植物標本を作成するとともに成分研究のための抽出エキスを作成、保存している点は、研究計画通りである。ネパール研究者への研究支援として、ネパール植物資源局 Joti Joshi 氏を昭和薬科大学に招聘し、1ヶ月間、技術指導を行った。天然物の取り扱い、抽出、分離精製及び構造決定までの基本的な実験の流れ、技術の習得を目的に計画を立て、概ね実行できた。TGF-βシグナルやYAPシグナルの異常は、がん化に関与している。今回の一次スクリーニングにより、VPより強くYAPシグナルを抑制する化合物25を同定できた点は評価に値する。また化合物25は、中皮腫細胞の増殖を抑制できたことより、研究計画は順調に進んでいる。
ネパール産薬用植物の栽培試験を継続し、さらに数種類のネパール原産の薬用植物の栽培試験を開始する。また,同時に,日本で栽培されている漢方薬原料植物等についても,現地で栽培試験を行い,ネパールでの薬草栽培の可能性を探る。ヒマラヤ地域は、様々なTaraxacum属植物が分布している地域の一つとされている。2016年8月にネパール産Taraxacum属植物を収集してDNA解析を行い、これまでに蓄積した日本産やヨーロッパ産の同属植物のデータと比較することによって、ネパール産Taraxacum属植物分類学的位置づけを行う。シダ類では、A. bicolor から主成分である cheilanthenetriol を単離した他、微量成分のため構造の確定まで至らない化合物の同定を行う。2016年8月にネパールに自生するホウライシダ科(Parkeriaceae)に属する Aleuritopteris 属や Adiantum 属シダなど近縁植物を採集し、その構成成分の解明及び含有成分を指標としたケモタキソノミー 研究へ展開する。また、すでに採集した S. angustifolia 及び S. alata についてもトリテルペノイドを中心とした成分研究を開始する。また、Swertia 属植物のトリテルペノイド成分を解明する。加えて、2014年8月に訪問した際に収集したネパール市場品生薬について,マウスを使ったドライアイに対する涙液減少抑制作用の一次スクリーニングを実施する予定である。化合物25に関しては、詳細なYAPシグナル抑制機構の解明と同時に、in vivoゼノグラフトモデルを用いた抗腫瘍活性を検討し、有効性が認められた場合、化合物25の誘導体合成のシミュレーションを行う。
2015年4月に起こったネパール大地震のため、予定していたアンナプルナ地方への植物採取ができなくなったため
2016年夏にネパールにて植物採取を2週間にわたり行う。
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