研究課題/領域番号 |
26305008
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
所 正治 金沢大学, 医学系, 講師 (30338024)
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研究分担者 |
木村 憲司 金沢大学, 医学系, 研究員 (10572183)
吉川 尚男 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (50191557)
伊藤 誠 愛知医科大学, 医学部, 教授 (90137117)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子疫学 / 腸管寄生原虫 / 分子分類 / ジアルジア / ブラストシスチス / フォルニカータ / アメーバ / 鞭毛虫 |
研究実績の概要 |
今年度は、9月に学校検診方式による学童からの糞便、尿サンプルの収集、ランダムに選択した10家族における家族全員の便サンプル、周辺動物(コンパニオンアニマル、家畜、野鼠)からの糞便収集を実施した。なお、犬、豚については、コンタミネーション予防のため、浣腸による便採取を今年度より開始した。本年度の成果概要は以下の通りである。 (1)モシュコブスキーアメーバの評価:従来ヒトのみが偶発感染しうるとされてきた自由生活アメーバであるモシュコブスキーアメーバを昨年度の調査において豚から検出していたが、今年度の調査によって土壌のコンタミネーションの可能性があることを確認し、自由生活アメーバの培養検出での要注意点として学会発表した。 (2)レトルタモナスの分離培養:動物に感染を認めた鞭毛虫類の培養トライアルでは、レトルタモナスについて、齧歯類、豚、犬、山羊由来株の分離培養に複数成功し、無菌培養を確立しようとしている。以上の詳細は、レトルタモナスの遺伝子分類とともに学会発表した。 (3)ジアルジアの種内多型解析:これまでに収集したインドネシアサンプルとともにアフリカ、大陸部アジア 、データバンク上のレファレンス配列を用いた遺伝子系統樹解析を実施し、これまでに知られていなかった新たな知見を得た。ジアルジアの少なくともassemblage Bはアフリカを起源とする腸管寄生原虫であり、ヒトを主な宿主とし、世界中に分布した可能性がある。本解析結果については、論文を準備中である。 (4)ブラストシスチスの種内多型解析:ヒトと動物に幅広く分布するブラストシスチスは従来人獣共通感染症と考えられてきた。しかし、遺伝子レベルの多型解析では、ヒトと動物が密接に暮らし衛生状態が悪い環境であっても、各遺伝子型の分布は宿主特異性によって分離されていた。この結果は、論文として発表した(Yoshikawa et al.2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)本研究の目的である網羅的な解析が実現している:アメーバ類、フォルニカータ(鞭毛虫類)、ストラメノパイル(ブラストシスチス)の検出・分類法がほぼ確立し、これまで知られていなかった途上国の辺境地域における各原虫の蔓延実態が続々と明らかになってきた。今年度はブラストシスチスの論文を発表し、その他の種についても論文準備中である。 (2)尿中分泌型IgA解析の方法が確立:尿中抗体解析のデータ取得は未だ途上にあるが、現地採取の尿によるELISA評価の方法をほぼ確立することができ、年齢層別解析結果において一定の傾向を認めた。 (3)これまでに蓄積したサンプル解析結果から見出された問題点をフィードバックすることで、フィールド調査の精度を改善できている:糞便サンプルへの土壌のコンタミネーションによる影響の評価などで明らかなように、疑義のあるデータに対する科学的な確認評価が実施され、改善が進められている。 (4)新たな方法の確立を目指したトライアルが継続的に実施されている:高率の陽性率がPCRスクリーニングによって検出された鞭毛虫類では、メニール鞭毛虫の初期培養に成功、しかし、継続培養は今後の課題である。一方、エンテロモナスでは、形態確認の努力を継続中であり、培養には未だ課題が多い。しかし、これまでに調査されてこなかったこのような鞭毛虫類についてフィールドにおける存在を確認し、その解析手法についても初年度から一定の進展をみている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である次年度には、主にこれまでに得られたデータの論文発表を重視するが、同時に、今後の研究発展のベースとなるトライアルをフィールドワークを通じて継続的に実施する。 (1)フォルニカータについては、未だ分子分類の確立していないメニール鞭毛虫、レトルタモナス、エンテロモナスについて18S rRNA遺伝子をターゲットとした種内多型の概要が明らかとなっている。そこで、得られているPCR増幅産物の全長シークエンスと系統樹解析による分類体系を確立し、レファレンス論文を発表する。 (2)上記論文発表を待ち、フォルニカータの進化研究を進めている研究グループとの共同研究によって、培養分離株を用いたゲノムデータ解析へと研究を進める。 (3)培養困難な種(メニール鞭毛虫、エンテロモナス、ポレッキーアメーバ、ハルトマンアメーバ)については、田辺ー千葉培地、バラムス培地、ロビンソン培地など、文献的に記載のある培養系を採用し、次年度のフィールドワークでの培養確立のための、また、すでに継代培養可能な種については無菌培養の確立のためのトライアルを継続的に実施する。 (4)尿中分泌型IgAについては、抗体上昇に関与する主要抗原の同定を進め、組換えタンパク質を用いたELISA法による抗体評価系の確立を進める。 (5)これまでに収集したジアルジア、アメーバ類の分子疫学データを総合的に評価し、最終年度である次年度に論文として発表する。
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