我々はこれまでにタイ-ミャンマー国境地域由来原虫に対し独自のアッセイ法であるSimple assay for artemisinin resistance(SAAR)を使った耐性試験を行い、合計10株のアルテミシニン耐性原虫の株化に成功している。昨年までに少なくとも1株(T1株)はカンボジア株とは異なり、初期リング期には耐性を示さず、異なる耐性の特徴をもつことが示した。加えて他の1株(T2株)は初期リング期に耐性を示すものの、カンボジア株の耐性遺伝子とされるK13遺伝子に変異を持たず、異なる機構によりアルテミシニン耐性を獲 得していることが示された。また、RSAを改良し、全ての生育ステージでの耐性の特徴を検討できるWhole survival assay (WSA)を開発 した。この手法によりT1とT2株を調べた結果、T1株はトロホゾイト期・シゾント期に耐性を示し、T2株は初期リング期に加え、トロホゾイト後期にも耐性を持つことが明らかとした。本年度はさらに他の株に対してSAARとWSAによる耐性試験を行った。その結果、新たに同定したT3株はカンボジア株と同様にリング期のみに耐性を示すものの、耐性遺伝子とされるKelch13遺伝子には変異を有していなかった。以上の結果より昨年度確認したタイ-ミャンマー国境地域にはカンボジアとは異なるアルテミシニン耐性原虫が出現していることが確認された。次にT1株について人工染色体を用いた手法で耐性遺伝子同定を試みた。その結果、細胞内の酸化-還元状態のバランスに関与する分子が耐性遺伝子候補として得られた。現在、この遺伝子の機能解析を進めている。
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