研究課題
本研究の目的の1つに、アジアに生息するウエステルマン肺吸虫(Pw)のフォスファーゲンキナーゼ(Pk)遺伝子のD1イントロン2(Int2)を用いて、系統解析を行うことである。これまで、南アジアのPwは、ヒト感染がなく、東アジアのPwのみにヒト感染が、報告されている現象に対する、遺伝学的解釈を与えようとするためである。まず、東アジアのPwには、2倍体と3倍体があるが、中国、韓国、台湾、日本、フィリピンの2倍体のPkD1Int2サイトの塩基配列の違いを見たところ、距離的に遠いフィリピン産のPwが、やはり遺伝的にも、離れていることが分かった。また、日本産、中国産、台湾産では、それぞれ集団内部に遺伝的変異が蓄積されているが、国間では、台湾産が一番離れていることが分かった。また、対馬、屋久島、天草の3倍体は、集団内部よりも、個体内の対立遺伝子間に大きな遺伝的変異が蓄積されていることが明らかとなり、過去に長い間隔離された集団の移動•集合により、雑種形成が行われたことを、示していた。これは、アイソザイムの申請者らの結果と一致したが、アイソザイムの結果と異なる点は、雑種起源が単一ではなく、多起源である可能性であった。一方、東アジアと南アジアのPwを比較すると、タイの集団は、常にフィリピンの集団とクラスターを形成し、地理的に近い、マレーシアとは、別のクラスターを形成した。この理由については、検討中である。また、インドの集団は、東アジアや東南アジアの集団からかなり離れており、スリランカの集団とクラスターを形成している。しかし、解析方法によっては、スリランカの集団の方が、より古い集団である特徴を示した。スリランカの集団が古い起源を有することは、他のいくつかの生物種においても報告されていることは、興味深い。
2: おおむね順調に進展している
これまで、インド、スリランカ、マレーシア、フィリピン、台湾、中国、日本において、ウエステルマン肺吸虫のサンプリングは、成功しており、そのフォスファーゲン遺伝子のD1イントロン2の塩基配列は、解読している。また、インドのアッサム地方などの北部において、Pw感染者からの尿の回収も一部成功しており、IgGとIgG4の抗体価についても、測定している。しかし、インドの新しいタイプ(東アジアタイプ)と思われるサンプルは、採集が困難で、従って、イントロンの塩基配列は、まだ未解読である。また、タイのウエステルマン肺吸虫は、その生息が最近極めて、少なくなっているようで、サンプリングはできていない。また、ウエステルマン肺吸虫と極めて近縁のP.saiamensisもタイとスリランカに生息するものと思われるが、それも採集ができていない。しかし、それ以外のマレーシア、フィリピン、台湾、中国、日本生息のPwのD1イントロン2の塩基配列は、すべて、解読しているので、おおむね順調に進展しているものと思っている。日本については、まだ、採集すべき地点がいくつか残っている。
今後は、インドにおけるPw感染者のより多くのの人数から尿の採集を行ない、抗体の検出を試みる。また、最近、東アジアタイプのPwがインドの北部から報告されたが、その採集を試み、D1イントロン2の塩基配列の解読に努める。さらに、スリランカとタイにおける、PwとP.saiamensisの採集に努める。また、解読する、イントロンのサイトを増やすため、適度の大きさの塩基配列を有するサイトを決定し、その塩基配列の解読に努める。
学会に参加することができなかった。
薬品などの購入に使用する予定である。
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