マラリアは、毎年40万人以上の死者を出し続けており、AIDSや結核とともに世界三大感染症に分類されている疾病である。我々はこれまでに、網羅的なアミノ酸濃度パターンであるアミノグラムを解析パラメータとし、齧歯類特異的マラリア原虫感染モデルを中心とした、宿主血中遊離アミノ酸情報(アミノ酸インフォマティクス)の解析を実施している。マラリアの諸症状の中で最も重症度が高いものとして、脳性マラリアが挙げられる。脳性マラリアは、マラリア原虫感染赤血球の脳毛細血管への付着および集積による脳血管の塞栓により発症するため、脳の原虫集積量は間接的に脳性マラリアの重症度と見なすことが出来る。我々はこれまでの研究から、イソロイシン欠損食 (Ile(-)食) の給餌によって、C57BL/6Jの生存率が上昇する結果を得ている。本研究において我々は、Ile(-)食を給餌したC57BL/6Jに齧歯類特異的マラリア原虫P. bergheiを感染させ、脳性マラリアを発症する感染6日後のマウスから外科的に脳を取り出し、in vivo imaging system (IVIS) を用いて同臓器におけるマラリア原虫の集積動態を解析した。その結果、予想外に、脳における原虫量に有意な差は認められなかった。感染赤血球の血管壁への接着は、赤血球後期ステージのマラリア原虫が関与するため、我々はこの後期ステージのみにおいてルシフェラーゼを発現するマラリア原虫株 (P. berghei/LUC) を用いて、IVISによる同ステージ原虫の集積動態解析を実施した。その結果から、Ile(-)食の給餌によって脳における同ステージ原虫の集積が顕著に増加していることを明らかにした 。これらの結果は、Ile(-)食の給餌が、マラリア原虫存在下においても脳性マラリアを発症しない、すなわちマラリアトレランス能を感染宿主に付与することを示唆する。
|