研究課題
本研究課題では、地域環境の重要な指標であるソーシャル・キャピタルや社会関係、社会参加が高齢者の健康とWell-beingに与える影響を解明することを目指している。世界的に人口の高齢化、寿命の延伸が進むなか、高齢になってもなお、健康を維持する高齢者がいる一方で、高齢期に入り健康やWell-beingが著しく低下してしまう者もいる。健康な高齢者はより健康に生活できる時間を長くすること(健康寿命の延伸)、病気や虚弱になられた高齢者も尊厳とWell-beingをもって生活できる社会を創ること、そしてその科学的エビデンスを研究知見として発信していくことかが研究者に求められている。このような加齢変化における「個人差」を測定し、その相違をもたらす要因とメカニズムを科学的に解明するために、平成28年度は1)加齢変化を検討するための第2回パネル調査を実施するとともに、2)対象者の脱落を補い、 データ解析結果をより頑健なものとするために、新規調査(中原区・渋谷区)を実施した。第2回パネル調査には549名(62.9%)、新規調査(中原区)には278名、新規調査(渋谷区)には237名が参加し、後期・超高齢者1388名(ベースライン)からなるデータベースを構築することができた。平成28年度はこのデータベースをもとに、高齢期の幸福感に対して、コミュニティ感覚、ソーシャル・キャピタル、社会関係などがどのように関連しているか、そのメカニズムの解析を進め、ソーシャル・キャピタルがコミュニティ感覚を媒介して、Well-beingを高めるとするモデルが最も高い適合度を示すことが明らかになった。この研究成果は学会でも高く評価され、平成29年6月に開催される日本老年学会(老年学関連8学会の合同大会)において、日本老年社会科学会の代表として選出され、発表する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題の計画を立案した当初は、平成28年度には加齢変化を検討するための第2回パネル調査を実施する予定であったが、この研究の意義を地方自治体の方がご理解くださり、また新たな研究資金の獲得も叶ったため、第2回パネル調査だけではなく、新たに渋谷区での新規調査と中原区での新規調査を実施することが可能となった。そのため、データベースの対象者数を増加させることができ、より頑健な分析結果を得ることが可能になったとともに、ソーシャル・キャピタルや社会関係、社会参加活動の状況を特徴の異なる2都市で比較することが可能となり、より多角的にソーシャル・キャピタルや社会関係、社会参加活動が健康やWell-beingへ与える影響、関連性を分析することが可能となった。これは本研究課題の目的を達成するために、たいへん大きな進展であった。
本研究課題では、後期高齢期、超高齢期における社会関係や社会参加活動、心身の健康、認知機能などの加齢変化とその個人差を明らかにするともに、健康、Well-beingを予測する心理的要因、社会的要因を明らかにすることを目的としている。特に、社会関係、社会参加活動とともに、高齢者の健康やWell-beingを持続可能可能なものにする社会資本(ソーシャル・キャピタル)の視点も取り入れ、広く地域環境、地域とのつながりの影響を検討する点に特徴がある。そのために以下の4つのプロジェクト:1)「維持・変動」、2)「Well-beingと寿命」、3)「変容プロセス」、4)「社会(他者)の意味」を立てて,研究を進めている.平成29年度はこれらのプロジェクトをさらに力強く推進していくために、あらたに統計解析の研究者にも解析のアドバイザーとしてプロジェクトに参加していただくとともに、解析を専門とする若手研究者を雇用し、「維持・変動」「Well-beingと寿命」に関して、先行研究では使用されてこなかった新しい解析手法も使用しながら、データ解析を進めていく。また「変容プロセス」「社会(他者の意味)」プロジェクトに関しては、社会(他者)とのつながりの意味を質的に捉えるためのインタビュー調査を実施する予定である。平成29年度は、平成28年度までに構築された充実したデータベースから得られる量的データとともに、インタビュー調査から得られる質的データをもとに、総合的、多角的にWell-being、健康と心理・社会的要因、地域環境要因の関係を明らかにしていくことを目指している。
当初予定していた海外での研究打ち合わせ・研究発表が平成29年度になったため。
平成29年度の海外出張旅費(研究打ち合わせ・研究発表)として使用する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うちオープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
中央調査報
巻: 703 ページ: 1-7
Journal of the American Aging Association
巻: 38 ページ: 495-503
10.1007/s11357-016-9944-8
老年社会科学
巻: 38(1) ページ: 32-44
http://psylab.hc.keio.ac.jp/staff/www_takayama/chouju/index.html