研究課題/領域番号 |
26310108
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
細井 洋子 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (80073633)
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研究分担者 |
平山 真理 白鴎大学, 法学部, 准教授 (20406234)
辰野 文理 国士舘大学, 法学部, 教授 (60285749)
古川 隆司 追手門学院大学, 社会学部, 准教授 (60387925)
渡辺 芳 東洋大学, 大学共同利用機関等の部局等, 客員研究員 (70459832)
宿谷 晃弘 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (80386531)
小柳 武 常磐大学, 国際被害者学研究所, 教授 (90576216)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2019-03-31
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キーワード | 高齢受刑者 / 再犯防止 / ライフストーリー / 自立支援 / 国際比較 |
研究実績の概要 |
1)国内動向の把握:研究に関する社会動向の資料、および海外の基礎データを収集整理。 2)海外の動向の把握:海外の研究者との交流を通して、諸外国の動向を把握し、また共同研究への可能性を探った。具体的には、①細井が平成27年7月5日より9日まで、豪のパースで開催の「15回 世界被害者学会シンポジウム」へ、②細井が7月12日から18日までポルトガルのリスボンで開催の「修復的司法欧州会議(Summer School 2015)」へ、③宿谷と五十嵐(本研究の中高年受刑者「自由記述アンケート調査」や「元受刑者への聞き取り調査」協力者)が平成28年1月22日から25日(助成は22日から23日)韓国のソウルの民営刑務所や韓国刑事政策院等を訪問。その結果、豪の刑事法学者Carol Lawson(Australian National University)、韓国の安成訓氏(韓国刑事政策院)が協力者として参画。 3)「高齢受刑者アンケート調査」(23年・25年度科研費により実施)の結果について、さらに高度な統計的分析を実施。出所後の要望・今後の人生設計像を明らかにし、かれらの自立に必要な要件を抽出した。「高齢受刑者の生活キャリアと生活意識の変遷」としてまとめる。 4)国内の高齢元受刑者への聞き取り調査実施(3名)。 5)海外(ニュージーランド10名、米国3名)の高齢元受刑者への聞き取り調査の実施(13名)。 6)日本の刑務所の実情・課題についての公聴会の実施(平成27年11月、菊田法律事務所)。7)全国の刑務所に在所する受刑者(中高年)による文面での「自由記述アンケート調査」の実施。継続中であるが、すでに300名近くの結果を得られ、その内の150名の生活史の記述の中で、犯罪を助長した要因、犯罪を阻止した要因を引き出し、かれらの犯罪への軌跡を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度での研究は、おおむね当初の目標に達しているが、一部今後の課題として残された。 1)「国内動向の把握」では、高齢者一般、および高齢者・高齢受刑者に対する社会の反応、政策の変容、などについての資料の整理が残された。また、国際比較のための諸外国の資料についても、海外の関連統計資料の様式や精度、情報量の差違が大きく十分な収集ができず、海外研究者との情報交換も十分でなく次年度以降に持ち越した。 2)「海外の受刑者調査」では、海外の研究者とのコンタクトは拡大しているが、刑務所や管轄機関との折衝は簡単ではなく、各国の状況に合わせた検討を次年度も行っていく予定。豪のNSWや韓国や台湾において、日本とニュージーランドで実施した「高齢受刑者アンケート調査」をベースにした各国向けに翻訳された調査票があり、具体的な実施計画の承認段階に近いと考えており、研究者の活動に期待したい。 3)平成25年度に実施した全国の刑務所を対象とした「高齢受刑者アンケート調査」(N=635:内女子87)において課題としながらも、質問内容やサンプル数の少なさで、十分検討できなかった「高齢女子受刑者」の問題について、平成28年度は、法務省の協力により、全国の女子刑務所を中心とした「女子受刑者アンケート調査」を実施し、女性の犯罪に特有な問題を引き出すとともに、法務省で着目している「摂食障害と万引き」など新たな視点の課題についても取り組くむことができるようになった。実施の準備を急ぎたい。 4)「聞き取り調査」については、いくつか機関を通じて高齢元受刑者の対象者の設定を進めているが、高齢者は容易ではなく不十分な状態にある。次年度以降、高齢元受刑者の対象者の設定の依頼先を広げるよう、関連機関との情報交換を積極的に行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
昨年、積み残した課題を実施する。具体的には、 1)わが国の高齢受刑者(犯罪者)の実像について、その実態と、その背後にある社会的、経済的政治的な背景を勘案しながら、基本的な「fact sheet」を作成し、米国、豪、ニュージーランド、韓国の「fact sheet」と比較し、マクロの観点から何が問題であるかを明確にする。 2)国内の「高齢女子受刑者」の実態をより詳細に分析するために、今年度は法務省矯正局の協力を得て、女子刑務所や医療刑務所の女子受刑者の中で、女子受刑者全体の約8%に当たる300名(年齢は40歳以上を想定)を対象に「女子受刑者アンケート調査」を行う。この調査は、前回行った「高齢受刑者アンケート調査」の方式(自記入で秘匿性を重視した留め置き式郵送回収調査)による調査とする。質問項目は、基本的には前回の質問項目を踏襲するが、以下の女子受刑者の問題を重視した質問項目を加える。 法務省は、2013年度より、女子の受刑者の問題に注目し、とりわけ現在の施設の中での課題(精神面、食事面)をとりあげ、全国調査を実施し、現在およそ3%の受刑者に問題があることを指摘した。医療、福祉、司法の関係者が相互に連携しながら対処していくことを示している。 われわれの研究でも、女子の高齢者が何ゆえに累犯を繰り返すようになったかについて着目し、思春期、青年期、中年期の「家族、職場、地域など」の人々との人間関係の不調による精神的葛藤が、その後の人生の中で「万引きなどの窃盗犯罪」への道筋になっているのではないかとの仮説を立て、検証する質問項目を検討する。そのために、「摂食障害」と「女性の犯罪」に関心を持つ医事刑法、司法精神医学、保健福祉などの分野の研究者を招き、質問内容を討議する。また、自由記述質問による質的データの分析処理にも注力したい。また、あわせて、元女子受刑者との面談も行い検証していきたい。
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