研究課題/領域番号 |
26310110
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研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
今井 博久 国立保健医療科学院, その他部局等, 統括研究官 (20316631)
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研究分担者 |
杉澤 秀博 桜美林大学, 自然科学系, 教授 (60201571)
関 ふ佐子 横浜国立大学, その他の研究科, 教授 (30344526)
田宮 菜奈子 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20236748)
中尾 裕之 宮崎県立看護大学, 看護学部, 教授 (40336293)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2018-03-31
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キーワード | 高齢者 / セクシュアリティ / 性生活 / 幸福 / 満足 / 人間関係 / 社会活動 / 健康度 |
研究実績の概要 |
背景として「高齢者の捉え方」の意識改革が強く要請されている現状がある。わが国は急速に高齢化が進展し、上述の様に高齢者の生活実態の捉え方についての意識改革をはじめ、高齢者の人間関係、働き方や社会参加の在り方等を根本的に転換させる必要性が生じてきている。たとえば、「高齢者は無性(asexul:他者に対して恒常的に恋愛感情や性的欲求を抱かないこと)である」と誤った先入観があり、また「人生65年時代」ではなく「人生90年時代」を前提とした仕組みに転換することが期待されている。 本研究の目的は、わが国の旧来のジェロントロジーで捉えられなかった分野を対象に「学際的なアプローチによって高齢者のセクシュアリティと心身の健康状態および社会経済状態との関係を定量的に明らかにし、新しい視点から多様で個性的な高齢者の生態像を正確に分析し、超高齢社会における望ましいウェルビーイングの在り方を検討すること」である。本研究では、セクシュアリティとは、異性との性的関係のみならず人間的なつながりや愛情、友情、融和感、思いやり、包容力など、およそ人間関係における社会的・心理的側面や、その背景にある生活環境などもすべて含まれる、と定義した。 上述した実証研究を行うために、(Ⅰ)様々な分野の専門家の参加を得て仮説や質問項目を検討、(Ⅱ)全国を対象に大規模な質問票調査および面接調査を実施、(Ⅲ)一般人および専門職に向けた高齢者のセクシュアリティの望ましい在り方の提言、といった3つのプロセスを経て研究展開する計画である。平成26年度は疫学・社会調査、臨床心理学、老年学 法学・社会保障論、医学(ヘルスサービス)、生物統計学から成る研究分担者のデスカッションにより(Ⅰ)の質問票の開発を図り、試験的な調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実証研究を行うために、(Ⅰ)仮説および質問票の開発、(Ⅱ)質問票調査および面接調査の実施、(Ⅲ)望ましい在り方の提言、といった3つのプロセスを経て研究展開する計画である。平成26年度は(Ⅰ)の質問票の開発を行った。 高齢者のセクシュアリティを問う質問項目では、独自に質問紙を開発した。異性との性的関係のみならず人間的なつながりや愛情、友情、融和感、思いやり、包容力など、およそ人間関係における社会的・心理的側面や、その背景にある生活環境などを問う質問項目を入れた。すでに本研究班の荒木らが1990年以来20年以上にわたって開発してきた質問紙の基盤があり、それに現代的意義を加え、かつ学際アプローチから高齢者の夫婦間および異性間の人間関係を把握できる内容とした。 人間の幸福度を測定する質問紙は、「PGCモラールスケール(改訂版)」や、イリノイ大学名誉教授エド・ディーナーの「人生満足尺度」が検討され、研究成果の国際比較を考慮して後者の採用を決定した。高齢者の社会経済状態を問う質問紙は、「生活満足度K」が候補になった。このスケールは9項目で構成されており、日本で開発された生活満足度スケールで信頼性、妥当性も検証されている。もうひとつの候補として橋本らの「高齢者の社会活動状況」が検討され、研究班でのデスカッションにより後者を採用することにした。健康関連QOLでは「SF-36」と「EuroQol-5D」などが検討された。前者は、米国で開発され日本語訳が出され、詳細に健康状態を調査できる利点があるが、訳が分かりづらく読み辛いなど課題があった。後者は、一般健康状態を調査する場合に適しており、また換算表が完備されており質問文も平易であり、研究班で検討した結果EuroQol-5Dが採用となった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りに初年度(平成26年度)では全国規模調査に向けた質問票の開発を完了した。試験的に実施した結果、回答の不能、理解し辛いなどのほとんど記入はなかった。但し、未記入の箇所は散見された。試験的な検討による回答は、性生活、社会活動、幸福度、健康QOLにおいて概ね仮説通りの結果であった。平成27年度5月末までに質問票の微調整を行い、大規模調査の準備を進める。 今後は初年度の成果を生かして質問票調査および面接調査を全国規模で実施する。主任研究者が主催している全国規模の「国立保健医療科学院のネットワーク」の都道府県連絡網を活用し、全国規模で対象者数を1000人以上にする。配布担当の保健師には、以下の都道府県の65歳以上の男女を対象者とし、男女比を1:1、また年齢構成では65歳-75歳未満、75歳-85歳未満、85歳以上の比を概ね6:3:1となるように依頼する。対象地区は、北海道、岩手県、宮城県、群馬県、東京、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、広島県、高知県、宮崎県を予定している。地区の保健師より対象予定者に質問票を配布する。回答者は記入した質問票を封筒に入れて自ら直接投函するシステムにし回答者のプライバシーを完全に厳守する。調査期間は平成27年9月から平成27年12月までの予定とする。 面接調査は、上の全国規模の質問票調査の際に、面接調査の可否を問う欄を作り、可能ならば氏名、連絡先を記載してもらう。対象者はさらに面接可能と記載した回答者の中から抽出する。面接方法および面接質問紙は、質問紙調査結果の分析で、浮かび上がった問題・疑問点、焦点化し深めたい内容などを中心に半構造面接を1人につき1回、1~1.5時間程度実施する。面接期間:質問票調査終了後の平成28年4月から29年9月までとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の効率的な使用により、残額が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
全国規模の質問票調査を実施する予定であるが、対象地区は北海道、岩手県、宮城県、群馬県、東京、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、広島県、高知県、宮崎県を予定している。地区の保健師より対象予定者に質問票を配布する。この全国規模の調査を実施するため、往復送料、データ入力費用、人件費、物品費などの費用が生じそれを賄うために使用する予定である。調査期間は平成27年9月から平成27年12月までである。また面接調査では、面接者は臨床心理士資格を持つ者5名とする。1面接者が1ヶ月に4~8人を目安に面接を実施。年間40~80人を面接する。1年半継続するので、5面接者で300人程度の面接数を確保する予定である。臨床心理士の人件費、旅費、物品費などに使用する予定である。面接期間:質問票調査終了後の平成28年4月から29年9月までとする。国内外の学会発表に採択された場合、旅費、参加費などに使用する予定である。
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