研究課題/領域番号 |
26310201
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
稲津 將 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80422450)
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研究分担者 |
中野 直人 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究院研究員 (30612642)
荒井 迅 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80362432)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2017-03-31
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キーワード | 数理気象学 |
研究実績の概要 |
研究計画の通り、(1)気象の長周期変動とその予測の数学的解明と(2)温帯低気圧の形状変化の数学的解明を並列的に実施した。 (1)気象の長周期変動と予測 季節予測に耐えうる低次元確率微分方程式を構築すべく、1,000年超の気象シミュレーション標準実験を実施した。気象シミュレーションには、IPCC第5次報告書の地球温暖化予測にも実績のあるMIROC4.0-AGCMを用いた。この標準実験では、海面水温など気象の外部条件は平年値を毎年同じく与えることで、気象内部の変動のみを取り出すことができる。1,000年超の実験には膨大な計算時間を要することから、実験は並列的に実施し、200年程度の複数の時系列とする予定だったが、今後の研究の必要性を考え、期間を2,000年に拡張した。本研究では、過去にも長周期変動の特性が良く調べられている対流圏の北半球冬季に着目して解析し、これまでの研究と整合的な主成分を得た。 (2)温帯低気圧の形状変化 すでに温帯低気圧の追跡はInatsu (2009)によって実装済みであり、これを用いて観測される低気圧の連結閉領域の追跡は終了している。この追跡プログラムによる形状の時間変化の結果を研究分担者・荒井と議論し、数学におけるどのような幾何学知見が利用可能かを見極めた。その際、単純な2次曲面ではない形状をどのように定量化するかという問題をより拡張したものとして、形状の数学的表現としてパーシステント・ホモロジーの手法が適応可能ではないかという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画にある(1)気象の長周期変動とその予測の数学的解明の気象シミュレーションは当初予定の倍の期間の実施を行った点と、(2)温帯低気圧の形状変化の数学的解明は思いがけない発見としてパーシステント・ホモロジーの利用というものが出てきたことがあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降は以下のような研究計画で実施する。 (1)気象の長周期変動と予測:2,000年の気候シミュレーション標準実験データに基づき4次元以上の確率微分方程式を構築する。本研究ではとくに対流圏における北半球冬季に着目する。北半球における長周期変動の主成分を4つ以上取り出し、これによって張られた相空間において予測可能性を議論する。とくに、4次元以上の確率微分方程式と相空間内におけるデータの軌道束の多様体との関係を考察する。気象予測データの軌道束は2次元相空間ですら、ある多様体上に集中しているように見える。4次元以上の相空間の場合、当然、その幾何構造は2次元のように単純ではない。形式的なデータ処理をもとに、研究分担者・中野からどのような数学解析方法がもっとも予測可能性の議論に相応しいかを議論する必要がある。また、議論の参考のため、現業予測データとの比較も行う。 (2)温帯低気圧の形状変化:温帯低気圧にみられる典型的な形状の時間発展を、研究分担者・荒井との数学的議論にもとづき、類型化する。とくに、パーシステント。ホモロジーによって、気象解析で得られるデータの幾何的特徴に客観的・数学的な基礎を与える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金は今年度実施した気象シミュレーションのデータ保管に係る業務がとくに発生しなかったため、人件費として見込んだ額が不要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度、気象シミュレーションのデータ整理のため、技術補助員を雇用する予定である。
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