平成29年度に繰り越した研究内容のうち、温帯低気圧の追跡に関し、計算機上で位相幾何学的な特徴量を取り出すパーシステント・ホモロジーを実装し、その結果を公表するに至った。論文執筆に際しては、パーシステント・ホモロジーで解析可能なデータのうち、0次ホモロジー群に着目し、昇順に並べ替えたデータ列に対する上からの探索と併合木によるデータの再構成という工夫を施した。スカラー場の極大点と鞍点の情報に基づき、スカラー場を両点間の差が事前に設定した値を超えるホモロジークラスに分割する新たな手法を開発した。本研究では2013年3月2日12時における北西太平洋上の850hPa相対渦度に着目して、低気圧の同定を行った。極大点と鞍点の差の閾値を100e-6 s-1とすると全領域は3つのホモロジークラスに、50e-6 s-1とすると全領域は17個のホモロジークラスに分割された。次に、併合木によるデータの再構成によってホモロジークラス間の近縁関係を明らかにした。その結果、極大点と鞍点の差の閾値を小さくすると多くのホモロジークラスが検出されるが、そのうちの複数によって単一の低気圧であることがわかった。また、本研究で同定された低気圧の極値の気候学的な存在密度は、従来の研究で示された太平洋ストームトラックに一致した。当該論文は、日本気象学会誌SOLAに出版された。 また、気象の長周期変動とその予測の数学的解明の点でも、共同研究者らと遅延主成分を利用した新たな研究の展開を議論した。
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