本研究では医療や美容分野で重要なメラニン色素を調べた。特に色素細胞内で微小管に沿ってメラニン色素胞が分子モーターキネシン・ダイニンに輸送される現象を研究対象とした。色素細胞の入手が容易なため、ゼブラフィッシュのウロコから色素細胞を採取し、初代培養した。色素細胞内のメラニン色素顆粒を光学顕微鏡を用いて明視野観察した。ホルモン添加に伴うメラニン色素顆粒の凝集メカニズムを調べた。
分子モーターによる色素顆粒輸送は非平衡現象である。熱ゆらぎ等の効果で色素顆粒がゆらぐため非平衡確率過程として記述することができる。この非平衡現象に対して、非平衡統計力学のゆらぎの定理を用いて輸送中の色素顆粒にかかる力を測定した。力測定からメラニン色素は複数の分子モーターに協同で輸送されていることが分かった。複数分子モーターによる物質の協同輸送が安定した輸送を実現している。また分子モーターのアデノシン三リン酸加水分解を阻害するシリオブレビンの効果を力測定を用いて調べた。その結果、シリオブレビンの添加で色素顆粒を輸送する分子モーター数が低下し、輸送が弱まることが分かった。
医学的に重要なシナプス小胞前駆体輸送についても非平衡統計力学のゆらぎの定理を用いた力測定を応用することが出来た。今後も、医療・美容分野で重要な小胞輸送に非平衡統計力学を応用し、小胞輸送メカニズムを解明したい。例えば、小胞輸送はアルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病においても小胞輸送障害が報告されている。
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