研究計画に従い,2019年度は以下のような研究を行って成果が得られた: 課題(A)と課題(B)では,臨界的遷移をランダム力学系の理論と関係づけて,力学系の位相計算理論を用いて臨界的遷移の予兆を検出する可能性について検討を継続した.特に,29年度に考案した,ノイズを含む時系列データからダイナミクスの情報を抽出する MGSTD 法を発展させ,より効果的な情報の表示方法や,計算パラメータの選択の方法を整備すると共に,1次元と2次元の確率微分方程式から数値的に生成した時系列データに適用して,その有効性を確認した.さらにその方法を気象データの解析に適用し,北半球冬季の成層圏と対流圏での気圧配置パターンの遷移に関する気象学者の従来の知見と合致する結果を得て,それをまとめた論文が学術誌 SIAM Journal of Applied Dynamical Systems から刊行された.この MGSTD 法は,ランダム力学系と力学系の位相計算理論を融合させる研究方法であり,気象データの解析だけでなく,ランダム性と決定論的ダイナミクスを併せ持つ,より広汎な実現象の時系列解析に適用できると考えられるので,今後もさらに研究を継続・発展させる価値がある. 課題(C)においては,前年度からの2足歩行の歩行・走行遷移の解析を継続し,より現実的な歩行運動の物理特性を考慮した数理モデルの解析を進めた.この遷移メカニズムを,ハイブリッド力学系の新しい 分岐現象として論文にまとめる準備を進めている.
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