研究課題/領域番号 |
26310210
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
廣川 真男 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70282788)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2019-03-31
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キーワード | Rabi model / Jaynes-Cumming model / 超対称性量子力学 / 超対称性の自発的破れ / カイラル性 / カイラル対称性 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,量子ビットの制御問題として,「2準位人工原子で実装する量子ビットの安定性が1モード・フォトンとの相互作用によりどのように変化するか」に関して調べた。本研究課題以前にその兆候を捉えてはいたが,本年度の研究で,1) 相互作用を段々大きくして行くと,当初超対称的量子力学にあった物理系が,超対称性を自発的に破ろうとし当初の安定性が崩れ;2) その崩れ方は,自発的超対称性の破れ方で決まることを見出した。更に,3) この自発的超対称性の破れは,2準位人工原子の2つの量子状態を入れ替えるカイラル性によるもので,相互作用が大きくなるにつれ,当初崩れていたカイラル対称性を復活させる方向に進み,これが自発的対称性の破れをもたらすことをつきとめた。これらの結果は Quantum Studies: Mathematics and Foundations(Spriger-Birkhauser)に掲載される。 一方で,予定していたJosephson接合の作り出す非線形性と第2・第3励起エネルギー間のエネルギー・ギャップとの関連性を調べる問題は計画通りには進まなかったが,次のような思わぬ結果を得ることができた:連携研究者の仙場浩一氏(情報通信研究機構),根本香絵氏(国立情報学研究所),研究協力者の W. Munro氏(NTT物性科学基礎研究所)の水落憲和氏(大阪大学)らとの共同研究で,上述の物理系の量子ビットの情報をNV中心ダイアモンド内の核スピンに記憶させる際の dark state に関する実験(Nature Vol.478, 221, 2014)で用いた数理モデルから数学的構造を抜き出し,人工原子とフォトンの両方に相互作用できるフォノンのようなボーズ場を外場として印加する数理モデルをたてそれを解析したが,Z. Wang と D. L. Zhou が提唱(Phys. Rev. A Vol.89, 013809, 2014)したquasi- dark stateも得られることが分かり,さらに両者の間にある種の双対性があることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で記したように,量子ビットの安定性が1モード・フォトンとの相互作用によりどのように変化するかを自発的超対称性の破れの観点から特徴付ける結果を得た一方,予定していたJosephson接合の作り出す非線形性と第2・第3励起エネルギー間のエネルギー・ギャップとの関連性を調べる問題は計画通りには進まなかった。しかし,その反面,本研究課題で考えている物理系に外場を印加することで,dark stateと共にquasi-dark stateを得る数理モデルを見つけその間の双対性を見出したことは,当初の計画になかった収穫である。以上が理由である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度計画通りに進んでいるテーマに関しては,その計画に沿って進める。具体的には,制御部に関する問題の継続問題として,数学における「非可換調和振動子」の観点から原子・共振器の数理モデルを考察する。また,この数理モデルを非可換調和振動子を通して表現論的,微分方程式的な考察と物理学的意味とを照らし合わせ,数理モデルをさらにブラッシュ・アップする。これらの問題に加え,新たに「量子ビットを電子のスピンで実装したスピントロニック量子ビットの位相因子による制御」の問題も検討し研究し始める。さらに,平成26年度に見出した,dark stateとquasi-dark stateとの間の双対性の考察も本年度の研究課題に加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年10月1日に岡山大学より広島大学大学院工学研究院へ異動し,新たな研究環境を整えるために時間を要してしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
広島大学を中心に、国立情報学研究所をはじめ、連携研究者や研究協力者との研究打ち合わせをより密にし、研究集会を開催するなど情報交換・収集、そしてさらに情報発信を活発に行う。
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