研究課題/領域番号 |
26310304
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 和彦 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (10354044)
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研究分担者 |
内野 彰 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター, 上級研究員 (20355316)
鳥山 和伸 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 生産環境・畜産領域, 専門員 (30355557)
山田 晋 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (30450282)
宮下 直 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (50182019)
山岸 順子 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (60191219)
程 為国 山形大学, 農学部, 准教授 (80450279)
二宮 正士 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (90355488)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2018-03-31
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キーワード | 農業環境工学 / 有機農法 / 雑草 / 物質循環 / 水田生態系 |
研究実績の概要 |
農法モニタリング班は、対象有機農法の生産に係わる直接労働時間が、全国の有機農家の平均の約半分、全国の同規模の慣行農家の1.1倍であることを見出した。また、収量が低いために面積当たり農業所得は全国有機の約9割であったが、作付面積が大きいために農業所得は、526万円と全国有機の約1.4倍となった。 水稲班は、基盤整備後3年目の圃場で、移植時期と栽植密度を変えて収量への影響を調べた。その結果、本農法では6月下旬以降に遅植えする場合に、植え付け株数を増やすことで収量を維持できると考えられた。有機圃場の収量は、慣行圃場の約70%であったが、基盤整備後の有機農法継続年数とともに収量が増加する傾向があった。 土壌班は、休耕期雑草のすき込み中断3年目で、水稲の生育が大きく低下することを確認した。また、重窒素標識実験により、すき込み雑草の分解が半減期1.6年の一次反応で近似でき、雑草由来の窒素無機化量はすき込み開始後5年で上限値の9割まで増加することを見出した。 雑草制御班は、当該圃場で最も多い雑草種であるコナギについて、埋土種子数あたりの残存個体数が、基盤整備後の有機栽培年数に応じて減少する傾向を見出した。 また雑草生態班は、雑草を定期的に抜き取る除草区と放任する放任区の比較により、試験期間中に作土層で減少した窒素の最大約33%を雑草が保持したと推定した。また、有機栽培継続田では、スズメノテッポウの生長量と土壌有効態リン量との間に有意な正の相関を認めた。 動物班が、2015年度の水田調査で採取した害虫・天敵類の個体数計測を行ったところ、天敵であるクモ類と食葉性害虫の幼虫は、有機栽培水田で個体数が多く、農薬の影響がうかがわれた。一方、吸汁性害虫の個体数は、慣行栽培水田での殺虫剤散布にも関わらず、有機栽培水田と違いは見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地圃場で基盤整備が進んでおり、それに合わせて研究対象も、有機圃場年数の異なる圃場間の比較から、同一圃場での基盤整備後有機農法適用年数の経過にともなう、イネの生育収量、雑草の繁茂状況、土壌からの養分供給などの変化へと、移行している。基盤整備後3年の圃場と、同じく2年および1年の圃場とでは、違いが明確に表れており、期待通りである。研究成果もまとまりつつあり、いくつかは関連学会で口頭発表するに至っている。こうしたことから、順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
農法モニタリング班は、気象観測を継続するとともに、雑草・水稲の生長モニタリングを継続する。そうした結果をもとに、有機農法水田の気象・土壌・植物生育モデリングを行う。 雑草制御班は、基盤整備圃場を継続して調査し、雑草抑制効果の年次推移をさらに明らかにする。具体的には、入水前の埋土種子数と移植40日後頃の残草量から、コナギの埋土種子数あたりの雑草残存個体数を算出し、それが有機農法継続年数とともに減少することを確認する。雑草生態班は、圃場での雑草バイオマス量測定を継続して、有機連用圃場における雑草バイオマスの増加速度を直接的に測定する。また、これまで得られた結果を取りまとめて、越年雑草群落の種構成とバイオマスを規定する要因について論文執筆を進める。 土壌班は、スズメノテッポウによる休閑期の無機化窒素の捕捉が、硝酸態窒素の溶脱をどの程度抑制しているかを、ポット試験で推定する。また、スズメノテッポウのすき込み時期が、土壌の窒素代謝に及ぼす影響を推定する。さらに、スズメノテッポウの分解を湛水土壌表面放置することで期待できる窒素固定量を推定する。雑草のすき込みが土壌可給態窒素の蓄積および水稲生育に及ぼす影響に関して、これまでに得られた結果を取りまとめて、論文投稿する。いっぽう、スズメノテッポウが土壌の難溶性リン酸の可溶化に及ぼす影響について、現地有機農家の土壌を用いたポット実験を行う。 水稲班は、基盤整備圃場の生育収量調査を継続するとともに、これまでの圃場調査・実験で分かった、有機農法圃場における水稲生育・収量のしくみを論文に取りまとめて投稿する。 動物班は、残された害虫・天敵類の種の同定作業を終えるとともに、他班の研究から得られた土壌やイネの結果を交えた解析を行い、論文化を行う。
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