研究課題/領域番号 |
26310308
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山下 洋 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (60346038)
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研究分担者 |
横山 壽 京都大学, 学際融合教育研究推進センター, 教授 (00372037)
杉本 亮 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 講師 (00533316)
清水 夏樹 京都大学, 学際融合教育研究推進センター, 准教授 (40442793)
吉岡 崇仁 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (50202396)
笠井 亮秀 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (80263127)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2017-03-31
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キーワード | 世界農業遺産 / クヌギ林 / ため池群 / 栄養塩 / 生物生産力 / 生物多様性 / 食物網 / 河口 |
研究実績の概要 |
世界農業遺産に認定された国東半島・宇佐地域のクヌギ林を含む森林・ため池群が、河川・沿岸域生物生産においてどのような役割を果たしているかを調べるため、森林率が高くため池の多い桂川と両者が少なく水田等の割合が高い伊呂波川を比較研究した。 桂川水系では森林に囲まれた上流域において硝酸態窒素濃度が高く、下流において減少した。一方、溶存態リンは下流ほど増加する傾向が認められた。伊呂波川の栄養塩動態は桂川とは異なり、硝酸態窒素、溶存態リンともに下流において明瞭に増加した。クヌギ林が豊富な国東半島の全域80地点で水質を調べたところ、桂川と類似した傾向が認められ、森林から硝酸態窒素が河川に供給されていることがわかった。降雨による出水時の栄養塩の動態を調べ、リンは出水と同時に高濃度で河川に流出するが、溶存態窒素は出水後に高濃度となることがわかった。また、出水時には大量の土砂が流出し、出水時の流量あたり微細粒状物質は桂川と比較して伊呂波川において明らかに多く、森林が微細土砂粒子の河川への流出を防止することが示唆された。 両河川に生息する動物の安定同位体比を比較すると、桂川において窒素安定同位体比が高く、炭素安定同位体比が低い傾向がみられた。河口域で採集された動物群集は、安定同位体比分析により桂川では7グループ、伊呂波川では5グループから構成され、桂川においてより多様な栄養構造の存在が示唆された。ニホンウナギは両河川で合計284個体採集され、個体密度、成長速度ともに桂川の方が高い傾向が認められた。また、予備的に分析したスズキ稚魚の成長速度も桂川において高かった。 農林水産循環による食料生産システムと地域の産業及び社会・文化との関連性については、ため池の管理手法及び多くの河川で行われているウナギ石倉漁に着目して、現地での聞き取り調査を実施し、その歴史と実態が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国東半島の森林から高濃度の硝酸態窒素が河川に流出していることがわかった。クヌギのような落葉広葉樹林では、落葉などにより森林から栄養塩が出やすいことが考えられるが、降下窒素による窒素飽和についても考慮に入れる必要がある。また、栄養塩の流出には森林の年齢が重要であり、樹齢の若い成長過程の森は栄養塩を出しにくく、成熟した森では余剰の栄養塩が出やすい。森林から供給される栄養塩については、データの注意深い解釈及びそれに必要な補完的調査を行う必要がある。さらに、森林が微細土砂粒子の河川への流出を防止する可能性が示唆されたことが注目される。これらについても、粒子の起源(森、水田、耕地、都市)を調べるとともに、水田への湛水など流域利用の季節変化、平水時と降水時の比較等が重要と考えられる。河口域において、物理環境、化学環境と生物の応答の時空間的変動に関する詳細な調査を行ったが、現在標本処理とデータ解析の途中である。河口から沿岸海域に至る動物群集構造と栄養構造に関するデータは得られているので、その結果と環境との関係の解析を進める予定である。農林水産循環による食料生産機構における地域産業・社会・文化との関連性の解明では、世界農業遺産認定を利用した、地域振興のための提言につながる施策を模索している。とくに、地域の農林水産に関する食文化との関連に注目して、聞き取り調査やアンケート調査を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
森林(クヌギ林)の豊かな桂川において、硝酸態窒素濃度が高い、出水時の微細粒子濃度が低い、生物多様性及び食物機能群の多様度が高い、ニホンウナギの分布量、成長速度が高い、スズキ稚魚の成長速度が高い等の結果が得られた。これらの結果と森林との関係について、そのメカニズムを解明し確認するために必要な補完的調査を実施する。2015年7月に、国東半島の9河川流域において、流域の源流から河口域までの80地点で採水し貴重なデータが得られたが、今年度は水田に水を張っていない秋季に同様の調査を行い、森林と水田の影響について河川間・季節間の比較研究を行う。また、懸案となっている溶存鉄濃度の調査を実施予定である。河口・沿岸海域の物理・化学・生物環境の把握のため、両河川にメモリー式水圧計、水温塩分計、クロロフィル濁度計を設置し、長期モニタリングを継続する。ニホンウナギについては、昨年に引き続き2河川の河口から上流域までウナギの採集調査を実施し、密度、成長速度、食性、ハビタット利用について明らかにする。秋に石倉による採集調査を行い、とくに産卵のために降海する銀ウナギを採集し、個体数や生態を両河川で比較して、ウナギの再生産に対する貢献を調べる。最終年度であることから、食料生産機構の保全と地域産業及び社会・文化との関連性の解明に重点を置き、国東半島・宇佐地域において、農林水産循環システムの解明とそれらの地域振興への有効活用方策について検討する。とくに、ウナギ石倉漁をコモンズの観点から分析し、地域社会における重要性を明らかにしたうえで、世界農業遺産を用いた資源と文化の共同管理手法として次世代に継承する方策を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
期待以上の成果が得られつつあることから、平成28年度にドイツで開催予定の国際学会において、より多くの大学院生に成果の発表をさせたいと考え、そのための旅費として翌年度に予算を残した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年9月にドイツブレーメンで開催予定のEstuarine Coastal Science Associationの第56回大会において、複数の大学院生に成果発表させるための旅費として使用。
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