研究課題/領域番号 |
26310313
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
佐伯 雄一 宮崎大学, 農学部, 教授 (50295200)
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研究分担者 |
鮫島 玲子 静岡大学, 農学部, 准教授 (00377722)
城 惣吉 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (20721898)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2018-03-31
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キーワード | ダイズ根粒菌 / 群集構造 / 温度 / 湛水 / 脱窒 / 塩類集積 / 環境傾度 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、土壌の湛水や塩類集積など様々な土壌環境傾度による根粒菌の群集構造形成のメカニズムを明らかにすること目的に研究を進めている。緯度による温度の変化や農業形態による湛水、乾燥による塩類集積など、根粒菌に対し大きなインパクトを示すと考えられる環境因子を中心に根粒菌群集構造に対する影響を検討した。 温度に着目した研究において、フィリピンを対象に土着ダイズ根粒菌Bradyrhizobium elkaniiの16S-23S rRNA遺伝子ITS領域-ハウスキーピング遺伝子rpoBの解析を行った。フィリピンのB. elkaniiのタイプはBe76-Be46であり、九州のB. elkaniiはBe76-Be76のタイプが占め、沖縄ではそれらの混合群集構造を示した。次に、湛水環境下における根粒菌群集構造の変遷について、亜酸化窒素(N2O)還元酵素をコードするnosZ遺伝子を有する根粒菌が優占化することが明らかとなり、湛水などの土壌管理による有用根粒菌の優占化の可能性を示した。さらに、乾燥地の塩類集積土壌においては、Sinorhizobium/Ensifer frediiの優占化が報告されている。平板培地上での根粒菌の耐塩性を検討したところ、Bradyrhizobium 属根粒菌と比較してS. frediiの耐塩性を確認したが、実際の土壌を用いたマイクコズムでの優占化は認められなかった。ダイズを塩類集積条件下でS. frediiとBradyrhizobium根粒菌の混合接種後栽培し、感染した根粒菌の群集構造を調査しとところ、塩類集積が進むにしたがい、S. frediiの根粒占有率が高まることが明らかとなった。 以上の結果から、温度、湛水状態、塩類集積は、根粒菌群集構造の形成に大きな影響を有し、根粒菌群集構造を形成する環境因子として重要な因子であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、温度による根粒菌群集構造に関して、フィリピンの土着根粒菌の解析において、新規の知見を得ることが出来た。ITS領域の解析だけでは分類が困難であった熱帯亜熱帯の土着ダイズ根粒菌の分類において有用なターゲット遺伝子を見出すことが出来た。本研究成果は平成29年4月にPlant and Soilに受理された。現在、フィリピン各地の土壌について調査を進めている。 土壌の湛水条件は、完全脱窒能を有する有用根粒菌を優占化させ、温室効果ガスの発生を抑制する。本研究に置ける結果は、完全脱窒能を有する根粒菌を土壌中で高い占有率に保つための土壌管理の可能性を示唆するものである。本研究成果は平成29年4月にMicrobes and Environmentsに受理された。 塩類集積における根粒菌群集構造は、宿主への感染が大きな影響を与えていることが示唆された。根粒菌が有する生理的差異のみならず宿主への感染を介して優占化していることが示唆された。根粒菌生態を明らかにする上で興味深い結果が得られたものと考えている。 これまでのところ、主に温度、湛水、塩類集積の環境因子に関して研究を進めてきた。それぞれの環境因子と根粒菌群集構造に関して成果が得られており、おおねね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
根粒菌群集構造の構築に影響を及ぼす環境因子として、温度、湛水(嫌気条件)、塩類集積にフォーカスして研究を進めている。根粒菌の根粒形成遺伝子の発現が温度依存性を示し、温度依存性と地理的分布が一致することを見出している。このため、その他の環境因子の解析においても関連遺伝子の発現解析をリアルタイムPCRを用いて行ない、根粒菌群集構造形成のメカニズムを明らかにする。 さらに、有用根粒菌を土壌中で優占化させる農業技術の可能性が見出だせているため、土壌管理技術として、人為的にコントロール可能な要因について調査を進め、有用根粒菌のコントロール技術を開発するために研究を展開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文掲載費として確保していた予算が年度内支払いとならなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、論文掲載費として支出予定(すでに掲載決定)。
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