研究課題/領域番号 |
26330003
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
古賀 弘樹 筑波大学, システム情報系, 教授 (20272388)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電子指紋符号 / 不正者特定 / 結託耐性符号 / インタリーブ攻撃 |
研究実績の概要 |
電子指紋符号は,ディジタルコンテンツの著作権を保護し海賊版の流通を抑止するための技術である.電子指紋符号の枠組みでは,ディジタルコンテンツには,それを購入するユーザと1対1に対応する符号語が電子透かしを用いて埋め込まれる.電子指紋符号では,ある想定以下の人数の不正者のグループが,結託してディジタルコンテンツを改変した場合に,不正者グループの一部または全部が,1に近い確率でわかるようにすることが求められる.不正者グループには,通常,マーキング仮定と呼ばれる制約が課される.
本研究ではまず,ある連続分布に従って定数p∈(0,1)が決まり,符号語が2値で成分ごとにPr(1) = p に従って独立に生成される電子指紋符号を考え,その性能を解析した.不正符号語からの不正者グループの特定は,ある種のスコア関数を用いて行う.本研究では,不正者が符号語の成分ごとに独立に攻撃するという条件のもとで,どの程度の人数が安全に電子指紋符号を使うことができるかを評価した.得られた結果から,電子指紋符号の容量の下界が得られた.得られた結果は2015年5月の電子情報通信学会情報理論研究会で発表した.
本研究ではまた,不正者グループがインタリーブ攻撃として知られる攻撃をとった場合の電子指紋符号の容量を解析した.インターリーブ攻撃は,不正者がもつ符号語成分の0および1の個数に比例した確率分布で不正符号語を生成する攻撃である. 本研究では,テイラー展開を用いて,インタリーブ攻撃に対する容量の高次の項を解析し,不正者数が大きくないときでも有効な,容量のよい近似式が得られることを示した.本結果は,2016年6月にスペインで開かれる国際会議 ACM Information Hiding and Multimedia Security 2016 で発表する(採択率:36.2%).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連続分布を用いて成分ごとに1が出現する確率を決め,その後2値符号語をランダムに生成する電子指紋符号は,有名なTardos符号等でも使われているが,容量に関する厳密な議論はこれまでほぼなされていなかった.この理由の1つは連続分布の扱いにくさにある.本研究で用いた手法は Chernoff 限界と大数の弱法則を応用した新しい評価法であり,不正者の攻撃が既知であるという制限のある状況下ではあるものの,新規性の高い結果であると思われる.
また,インタリーブ攻撃に対する容量の解析で用いたテイラー展開を用いた評価は,Bernstein多項式として知られる多項式の性質を用いており,学術的にも価値が高い.特に数式処理ソフトウェアを用いると,7次までの高次の項を導出することができる.インタリーブ攻撃の容量が他の方式に比べて小さくなることから「最悪の攻撃」とみなされていることもあり,本手法はさらなる発展性を見込むことができる.
本研究ではさらに,電子指紋符号とも関連するタスク符号化の問題についても考察し,香港で開催された国際会議2015 IEEE International Symposium on Information Theory で研究成果を報告した.タスク符号化の問題ではShannonエントロピーでなくRenyiエントロピーが本質的な役割を果たすという点で興味深く,今後も電子指紋符号の問題との新たな関連性を調べることが可能になる.これらの結果から,本研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,符号語シンボルの分布が連続分布に従って決まる確率的な符号の容量について,さらに解析を進めていきたい.平成27年度に発表した結果は,不正者グループの人数および不正者グループの攻撃モデルが既知である場合の容量公式の下界であるが,不正者特定の方式および証明の手法をさらに洗練させて,よりタイトな容量を導出することを試みる.同じ問題設定のもとで,容量公式の上界が導けるかどうかも重要な課題であるので,解析を同時に進めていきたい.
次に,平成27年度中に得られた結果を,不正者グループの数のみを既知とし攻撃モデルを未知とする場合に拡張することを考える.このモデルはより現実に近い定式化である.この場合は,容量は,不正者の攻撃モデルに関して最小化したものを,さらに符号語を生成するための確率分布に関して最大化した値になることが予想される.最小値と最大値を与える確率分布がどのようになるのか詳細に検討したい.特に2値符号の場合に,Jeffreysの事前分布が最適になるかどうか,最適性がいえるとしたらどのような状況であるかを詳しく調べてみたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に行われた国際会議の会場は香港であり,比較的近く交通費が見込み以下であったこと,本務の都合により当初予定していた国内のシンポジウムへの投稿ができなかったことが未使用額が発生した主な理由である.
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次年度使用額の使用計画 |
主要な結果が得られつつあるので,平成28年度は,いくつかの国内会議および国際会議で研究結果を発表することを計画している.具体的には,すでに採録が決まっているACM Workshop on Information Hiding and Multimedia Security の他,国際会議ISITA2016で発表を行う予定である.未使用額は主にこのための旅費および参加費に充てる予定である.
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