電子指紋符号は,ディジタルコンテンツの著作権を保護し海賊版の流通を抑止するための技術である.電子指紋符号の枠組みでは,動画などの有償のディジタルコンテンツには,そのライセンスをもつユーザと1対1に対応する符号語が埋め込まれる.電子指紋符号では,ある想定される人数以下の不正者のグループが,結託してディジタルコンテンツを改変した場合に,不正者グループの一部または全部が1に近い確率でわかるようにすることが求められる.
本研究では,電子指紋符号が2値の場合を考え,不正者グループがインタリーブ攻撃として知られる攻撃を行なった場合の電子指紋符号の同時容量を詳細に解析した.ここに電子指紋符号の同時容量とは,想定人数以下の不正者グループが攻撃を行なったときに,不正者グループ全員を1に近い確率で特定できるためのユーザ数の上限としての意味をもつ.インターリーブ攻撃は,符号語成分の0および1の個数に比例した確率で不正符号語を生成する攻撃であり,もっとも同時容量が小さい攻撃として知られている.本研究では,テイラー展開を用いて,インタリーブ攻撃に対する容量の高次の項を解析し,不正者数が大きくないときでも有効な,容量のよい近似式が得られることを示した.研究成果は,2016年6月に国際会議 ACM Information Hiding and Multimedia Security 2016 で発表した.
本研究ではさらに,電子指紋符号において,ベイズ統計の手法を用いた不正者の特定について検討した.具体的には,インタリーブ攻撃のように,攻撃が不正者に関して対称性をもつ場合に,不正者の1人が何らかの方法で特定できた前提で,不正符号語と特定された不正者の符号語を用いて攻撃のパラメータを求め,他のすべての不正者を高速に特定するための方法を検討した.本研究成果はさらに検討を加えて今後学会等で報告したい.
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