昨年度までの研究によって、ハミルトニアンオラクルで記述される未知のハミルトニアン動力学系からなる量子系と量子計算機を組み合わせ、量子計算機上でハミルトニアンに依存しない普遍的な量子アルゴリズムを実行することによってハミルトニアンオラクルを入力とする超写像を実装し、量子系への量子操作や量子測定を実装する新しい量子アルゴリズムの提案やその改良が進み本課題の主な目的が達成された。そこで今年度は、ハミルトニアンオラクルをより一般化し、任意の未知の完全正値写像で与えられるオラクルを入力として別の完全正値写像を出力とするような量子力学の範囲内で実装可能な超写像を高階量子演算(higher order quantum operation)とあらためて定義し、高階量子演算を量子計算機上で構成するための定式化に着手した。 高階量子演算は、入力となる完全正値写像を記述するChoi行列に対する写像の完全正値性の要請から、完全正値超写像である必要がある。オラクルを1回コールしただけでは完全正値超写像にならない超写像のうち、有限回コールすることで高階量子演算として実装可能となる超写像の持ちうる性質や、このような高階量子演算を実装する量子回路の持つ性質に注目して解析を進めた。その結果、ユニタリオラクルに関しては、ユニタリオラクルUの次元がdの場合には、オラクルをd回コールすることでU^dの普遍的制御ユニタリ化が可能であること、また、オラクルのd-1回コールによって複素共役化したユニタリの実装が可能であることを、具体的な量子アルゴリズムを構築して示した。また、ユニタリオラクルの複素共役化を実装する高階量子演算を用いることで、未知量子状態のエンタングルメント量を状態の同定せずに求めるエルミート演算子が構築できることを示した。
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