研究課題
平成27年度に得られた成果は主としてアルゴリズム開発に関わるものであった.まず,当該年度で最も特筆すべき研究成果は二次錐制約をもつ凸半無限計画問題に対する陽的交換アルゴリズムの開発である.これは本研究代表者が以前開発した二次錐制約をもつ線形半無限計画問題に対するアルゴリズムを自然に拡張したものである.ただし,線形半無限計画問題と凸半無限計画問題とでは問題のクラスに大きな違いがあり,既存研究の単純な拡張では同様の収束保証のあるアルゴリズムを構築するのが困難であった.そこで,本研究では,国立成功大学(台湾)のSoon-Yi Wu教授と清華大学(中国)のLiping Zhang教授に協力を仰ぎ,凸関数の部分線形近似に対する誤差項を巧みに評価することにより,緩い仮定で収束性の保証のなされるアルゴリズムを構築するに至った.この研究成果はJournal of Scientific Computingに投稿され,既にオンラインで出版されている.また,二次錐計画問題の単体法的アルゴリズムに関する研究成果も本年度に得られた成果として特筆される.本研究で対象とした問題は有限個の二次錐制約をもつ最適化問題であるが,二次錐制約を無限個の線形制約として等価に再定式化し,それを線形半無限計画問題として取り扱うことにより,単体法的アプローチを可能とした.一方,交通モデルに関する研究としては,平成26年度に行った直列構造ボトルネックモデルに対する均衡解析研究をツリー構造に拡張したものが挙げられる.本研究では,均衡解の実験的な解析結果がいくつか得られたが,論文として発表するには至っていない.
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は錐計画問題や半無限計画問題に対するアルゴリズム研究に大きな進展があった.研究発表欄にも記述のあるように,査読付きの英論文を3本発表できたし,その過程でさらに新たな発展的課題が見つかった.また,交通計画に対するモデル研究としては,これまで直列構造(コリドー型)をもつ通勤時刻選択均衡問題のみが考えられていたのに対して,これをツリー構造をもつ問題へと拡張した研究を行った.これにより,Y字路のような複数の分岐先から都心へと交通が集中するようなモデルの表現が可能となり,交通量の集中によるボトルネックの影響を実験的に観察できるようになった.このように,最適化アルゴリズムの開発と交通計画への応用という流れは着実に進んでいると言える.特にここ2年間で,交通計画における通勤時刻選択均衡問題に関する成果が多く得られたことが特筆すべき点である.
本年度は,通勤時刻選択均衡問題に対する拡張研究をさらに推し進めて行きたい.これまで直列構造やツリー構造といった複数のボトルネックを有する構造をもつ交通ネットワークモデルへの拡張研究を行ってきた.一方,時間価値特性に関してはすべての通勤者において同一であるという仮定を置いていた.実際は各通勤者で時間価値は異なり,渋滞に遭ってもゆっくり通勤したい人と,渋滞を避けるために早めに通勤したい人が道路上に混在している.この状況をより反映するため,通勤者の異質性をモデルに組み込むことが考えられる.このような通勤者の異質性を考慮した交通モデルの構築と均衡解析を本年度は行っていきたいと思う.また,アルゴリズム開発としては,半無限計画問題に対するαBB法の研究や,錐相補性問題に対する逐次単射アルゴリズムの研究を進めて行きたいと考えている.さらにこれは可能かどうかは分からないが,無限次元変数をもつ相補性問題に対するアルゴリズム研究も何かしら成果が得られればと考えている.これが可能となれば,通勤時刻選択均衡問題において時刻を離散変数ではなく本来の連続変数として直接取り扱うことができるため,均衡解に対する知見がより深まることが期待できる.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Optimization Methods and Software
巻: published online ページ: online
10.1080/10556788.2015.1124432
Journal of Scientific Computing
巻: first online ページ: 1-23
10.1007/s10915-015-0149-6
DOI:10.1080/10556788.2015.1121487
http://www.plan.civil.tohoku.ac.jp/opt/hayashi/