研究代表者の中川は、外部研究者(山中卓氏・杉原正顯氏)との英文の共著論文2編が掲載された。これは格付変更の発生確率をトップダウン・アプローチという枠組みで評価する際の課題であった細分化という手続きにおいて、潜在変数ファクターを導入することで、カテゴリの構成比に比例して細分化確率を決めていた既存の方法に比べて説明力が向上することを、過去の格付変更データを用いて実証を行った成果をまとめたものである。 同じく「利益ベースの構造型モデルに基づくデフォルト率評価」について、山中卓氏と平成28年7月にニューヨークで開催された国際会議で報告した。資産価値(ストック)を状態変数にする従来のアプローチとは異なる事業利益(フロー)を状態変数とした構造モデルでの実証研究は、倒産確率の水準の制御という点でまだ課題が残るものの、これまでとは異なる倒産構造を示唆する分析結果が得られており、論文完成に近い段階に来ている。 また、前年度までに購入・整備を行った企業倒産情報に関するデータベースにもとづき、倒産リスクの依存関係を測るリスク尺度をHawkesグラフ推定という新たなアプローチで実証分析する研究に着手し、国内の研究集会で2件報告を行った。従来の方法よりも推定の計算負荷が押さえられ、解釈しやすい結果が得られた。こちらも論文完成に近い段階に来ている。 研究分担者の足立は、圏の上でのリスク尺度というアイデアをまとめた先行論文Adachi(2014)で導入した圏を大幅に拡張し、すべての確率空間をオブジェクトとする圏 Prob を提案した。 この圏 Prob は、非常に一般的でリスク尺度以外にも多くの応用が考えられるため、この圏とその基本的な性質をまとめた論文と、金融価値尺度の定式化へ応用した論文を作成した。国内外での研究集会等で発表するとともに、前者は投稿中、後者はワーキングペーパーとして登録した段階である。
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