研究課題/領域番号 |
26330035
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
倉田 博史 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50284237)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ユークリッド距離行列 / セル行列 / ムーア・ペンローズ逆行列 / ラプラシアン |
研究実績の概要 |
平成26年度は、「点配置の順序付けと上下界の利用問題」を中心に扱うという計画であった。具体的には、 ・非類似度行列 S の射影として得られるユークリッド距離行列 D の順序付けの研究 ・下界 DL と上界 DU の定義と導出、その意味の明確化 を中心に研究する予定であった。実績として、上下界の導出までは出来なかったが、そのための基礎となる事実を幾つか導出することが出来た。それらは、2本の論文にまとめられ、一つは Linear Algebra and its Applications 誌に掲載された。もう一本も国際誌に投稿済みであり、審査中である。ここではその2本の論文の内容を紹介する。 一つは、インド統計研究所の Ravindra B. Bapat 教授との共同研究(Kurata and Bapat (2015))であり、所与のユークリッド距離行列の Moore-Penrose 一般逆行列を導出するというものである。距離行列の(一般)逆行列に関する研究として、木グラフの距離行列が常に正則であり、その逆行列がグラフのラプラシアンとランク1の行列の和になるという定理がよく知られている。その発展として、一般のユークリッド距離行列の Moore-Penrose 一般逆行列の表現を導出し、それが依然としてラプラシアンとランクが1または2の行列の和となっていることを示した(ランクが1となるか2となるかはユークリッド距離行列がspherical か否かで別れる)。もう一つの研究成果は、テキサスA&M大学の Pablo Tarazaga 教授と共同研究であり(Kurata and Tarazaga (2015))、フロベニウスノルムの意味で、所与のユークリッド距離行列に最も近いセル行列を導出したというものである。セル行列は非常に簡潔な構造を持つユークリッド距離行列であり、情報の損失の少ない簡潔な点配置を構成するための基礎として利用しようと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ研究は数学的なものに留まり、統計学的な含意を持つものは得られていないが、上記の2論文(Kurata and Bapat (2015)と Kurata and Tarazaga (2015))とも今後の研究の基礎となる内容を持っており、概ね順調と言ってよいものと考えている。少なくとも研究の遅滞には当たらないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の計画:この年度は研究目的の「(2)次元縮約により損失した情報を非類似度行列の固有値によって回復する方法」と「(3)非類似度行列の木グラフによる近似表現の新しい方法」を中心に扱う。そのためには、所与の非類似度行列 S に対して、それに最も「近い」木グラフを求めるための基礎理論が必要である。現時点での見込みは次の通りである。「n×n非類似度行列S(あるいはユークリッド距離行列 D)に対して、それに対応する非負値定符号行列B(Young-Householder-Gower変換)を取る一方、頂点数 n の木グラフのラプラシアン行列の集合(これは有限集合である)を考え、上記の行列 B に最も近いラプラシアン行列を求める(有限集合であるからこれは一意に存在する)。選ばれたラプラシアン行列に対応する木グラフを S の近似と見なす。」というものである。ここで、対称行列の「近さ」は最も標準的なフロベニウス・ノルムを用いる。 この方向性で研究して、実用に足りない部分が見つかれば、木グラフを「重み付き木グラフ」に変更するなどして対応したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、倉田がテキサスA&M大学のPablo Tarazaga教授とインド統計研究所のRavindra B. Bapat 教授を訪問する予定であったが、両教授と倉田の都合により、両教授が来日することとなったため、滞在日数などや交通費などに変更が生じた。また、研究面では、応用的研究よりも理論的研究が中心となったため、数値実験などの謝金が発生しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は応用的研究も行うため、数値実験などで謝金が発生するため、そこで消化される見込みである。
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