本研究課題では,多変量統計推測手法が直面する諸問題に対して数理統計の立場から新たな解決策を導出し,その有効性・最適性に関する理論の展開を行い,シミュレーション実験による数値的な比較及び現実のデータ解析での有用性を示すことを目的として実施した。線形混合モデル・一般化線形混合モデルを利用した小地域推定について,変量分散混合モデルにおけるベイズ推定法と計算アルゴリズムの導出,条件付き平均2乗誤差に関する研究などを行った。小地域推定におけるベンチマーク問題について,正の値をとるデータを分析するための乗法モデルに関してベンチマーク問題の解法を与えた。線形混合モデルにおける変数選択について,共変量が観測モデルと予測モデルで異なる場合の条件付きAICの導出と数値的な検討を行った。高次元多変量推測理論の展開については,ファクターモデルを利用した共分散行列の推定量の提案と高次元での性質を明らかにした。多変量正規分布の平均と共分散行列などの推定に関してミニマックス推定法などの導出を行った。 特に最終年度については,小地域毎に誤差分散が異なる線形混合モデルを考え,異質性をもつ分散にガンマ分布を仮定した変量分散混合モデルと超母数に事前分布を想定した階層的なフルベイズモデルを提案し,計算アルゴリズムの導出,事後分布の積分可能性の証明を行った。またspike-slab事前分布を用いたモデルや分散関数を組み込んだモデル及び変換モデルについても考察した。多次元母数の推測に関しては,行列平均をもつ多変量正規分布の予測問題においてミニマックス性をもつような事前分布のクラスを導出した。また非心カイ2乗分布の非心度の推定問題についても不偏推定量を改良するための統一的な理論を構築した。さらに,歪度正規分布のもとでのスタイン問題や予測分布の改良結果及び共分散構造を組み入れた分散成分の新たな推定方法の提案を行った。
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