研究課題
本年度は2009年の新型インフルエンザ流行の世界的な差についての検討を行ってきた。新型インフルエンザは2009年は4月にメキシコで発生し、日本には5月の上旬に、神戸で感染者が報告され、全国に感染が拡散した。日本を地域別に見ても、沖縄では6月下旬に新型インフル感染者の報告があり、これは他の地域よりおよそ2ヶ月遅いものであったが、既に夏のインフルエンザ期であったので、第34週に流行のピークを迎えた。他の地域では第43週から49週目に流行のピークが観測された。インフルエンザウイルスの遺伝的な検出では、季節性インフルエンザを新型インフルエンザが駆逐するような現象が見られた。この現象は北半球で見られ、アメリカ、イギリス、ヨーロッパ、カナダなどと共通である。一方、南半球では通常のインフル流行期にあり、季節性インフルエンザと新型インフルエンザが共存する形での流行が報告された。このような地理的な感染現象の特徴から、インフルウイルス同士が結果的に競争関係をもち、流行すると仮定できる。この現象を説明するために、複数のインフルエンザ型の共存を前提にした微分方程式モデルの研究に着手している。通常のモデルでは感染可能(Susceptible state)、感染(=発病, Infected state)、治癒(隔離, Remival state)の3状態に基づく、SIRモデルでインフルエンザ流行現象を説明するが、これを複数のインフルエンザ型が共存するモデルとして構築して、その特徴の研究を行っている。この新しいモデルではインフルエンザ間の競争関係をどのように構築するかが、大きな課題である。また、他のウイルス流行との関連性で、HTLV-1感染などについての研究も行い、ラクトフェリンの抗ウイルス性についての研究も始めた。
2: おおむね順調に進展している
新型インフルエンザは大多数の人が免疫を持たず、その流行の状況はインフルエンザ流行の早さや強さの基準となる。2009年4月にメキシコで発生が確認された後に、大流行に至るまでの地理的な状況を把握した。インフルエンザは定点観測による性年齢別のインフルエンザ様疾患の患者数と、抽出された型の数が各国の監視システムで報告されたいる。これらのサーべーランス研究の文献を北半球から南半球にいたるまで調査し、北半球での新型インフルエンザの季節性インフルエンザの駆逐現象、亜熱帯から熱帯地方にかけての新型インフルエンザの進入の遅延現象、および南半球での新型インフルエンザウイルスとその他の季節性ウイルスの共流行現象が把握された。この観察により型の違うインフルエンザウイルス同士の競争現象の導出とインフルエンザ流行方程式の構築を行うことができた。熱帯や亜熱帯地方は通常は夏場にもインフルエンザが流行し、季節性の流行中であったことが、新型インフルエンザウイルスの侵入を防いでいたことが説明できた。シミュレーションによる研究が進展して、一人の感染者が他人を感染させる再生産係数の推定に着手できた。感染流行方程式は連立微分方程式であるが、その近似として、差分方程式を用いた。インフルエンザ感染率の推定は難しく、インフルエンザ観測の週報を元にした感染率の推定にも研究を進めるために、他のウイルスの感染システムの推定研究を行った。
インフルエンザ感染現象は複雑であり、インフルエンザの遺伝子や系統の変異もあり、ワクチン接種の効果についての疑問が提出されている。不活化ワクチンの場合は、初回の接種では効果があるものの、再接種の場合の効果は落ちるとの報告、および14歳から60歳までの健常人については、ワクチン接種をしないことが費用効果を考えると最良であるとの報告もでている。インフルエンザの予防接種については、ウイルスの遺伝子や系統が亭号すると有効ではあるものの、長期的な効果は劣ることが疫学データ上で示されている。インフルエンザワクチンの効果の有無についての研究は、疫学的なデータに基づいて行う必要があり、都道府県別に1999年から2010年までの定点観測データを収集し、経年的な相関係数の変化を調べる計画である。インフルエンザ定点は全国で小児科定点がおよそ3000、内科定点が2000であるが、都道府県ごとの小児科や内科診療施設の密度を反映していない。インフルエンザ様疾患の観測数を基準かするための方法が必要となる。この方法として小児科と内科医師数に基づく方法を検討している。また、ワクチンの接種数とインフルエンザ様疾患の患者観測数との関連性についても解析を行う。
本年度はパーソナルコンピュータおよびシミュレーションソフト等の購入を延期したために、予算に使用残額が発生したものである。
本年度はパーソナルコンピュータおよびシミュレーションソフトなどの物品費に60万円、旅費に30万円、および論文の校正と投稿料をおよそ10万円の予算で研究を行う予定である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
Journal of Clinical Peridontology
巻: 40 ページ: 743-753
10.1111/jcpe.12119
Journal of Clinical Peridontology,
巻: 41 ページ: 772-778
10.1111/jcpe.12273
http://www.med.oita-u.ac.jp/IS/eshimahome.htm
https://www.researchgate.net/profile/Nobuoki_Eshima?ev=hdr_xprf