研究実績の概要 |
最適な治療方法を確立するためには,その有効性・安全性を確認する信頼性の高い臨床試験の開発が必須である.そのためこれまで,医学的な重要性に基づいて治療方法の有効性と安全性の両方を同時に考慮して精度よく評価する検定方法等を開発してきた.そこでは,競合リスクの影響は無視できると仮定された.しかし,臨床試験現場では無視できない競合リスクが存在することも多い.例えば,死因間の独立性を仮定して生存時間解析を行った文献が多く見受けられるが,実際の死因は互いに独立とはいえない.そこで本研究では,このような競合リスクが存在する場合の高精度な評価法を開発する. 平成28年度までに, 1.従来の解析手法の種々の問題点を解決するために,現在用いられているハザードや累積発現率の検定方法とモデル化等の解析法をさらに詳細に分析した.Lunnのモデルについて検討を行い,結果を国際学会で報告した. 2.臨床試験において血糖値や血圧値などの経時的データが何らかの理由により完全には観測できない(欠測になる)場合の評価方法を,何らかの理由を競合リスクとして扱い優越性試験および非劣性試験それぞれの状況設定で検討した.被験者の便益という新たな観点から評価方法の改良を検討し,結果を国際学会などで発表した. 3.治療のための入院から退院までの期間(入院期間)の評価において,退院理由(例:軽快,悪化,死亡)が競合リスクになることを考慮した方法と解析プログラムを開発した.入手可能であった医療評価分野での例題としての入院データには臨床試験では通常見られないような左トランケートデータが含まれていた. 平成29年度は,左トランケートデータにも対処できるように方法を改良し,関連分野に適切な解析事例を提示することも重要と考え,学会発表などをとおして当該分野の専門家にも本方法の有用性を広めた.研究成果公表の1つとして関連する書籍を執筆した.
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