研究課題/領域番号 |
26330085
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中川 郁夫 大阪大学, サイバーメディアセンター, 招へい准教授 (70647437)
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研究分担者 |
下條 真司 大阪大学, サイバーメディアセンター, 教授 (00187478)
樋地 正浩 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40400212)
福本 昌弘 高知工科大学, 工学部, 教授 (70299387)
菊池 豊 高知工科大学, 地域連携機構, 教授 (80242288)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Internet of Things / Cloud Computing / Distributed Computing / Statistical Computing |
研究実績の概要 |
本研究では、IoT (Internet of Things) で収取されるデータを、秘匿かつ分散して複数の独立のクラウド上に保存することで、プライバシ情報の漏洩リスクを低減しつつ、パブリッククラウド上で統計解析を実行するための手法について提案している。提案手法は次の特徴を持つ: (1) データは秘匿・分割した後に処理するため 「データ漏洩リスクが少ない」、(2) 複数クラウドが協調して分散処理を行う 「インタークラウド環境」を実現する。 なお、本研究プロジェクトでは、平成26年度に基本アーキテクチャの設計・提案を行うとともに、デバイス上でデータを秘匿・分割する仕組み、及びインタークラウド環境での分散統計解析の基本的な仕組みについて実装し、その機能検証を行った。 平成27年度は、主として次の2つの研究活動を推進した。 (1) 秘匿分散手法のスケールアウト拡張、及びトランザクション拡張の実装と検証: クラウドコンピューティングのメリットを最大限に活かしたスケールアウトモデルの秘匿分散手法の提案と、その実装、検証を行った。技術的には DHT (Distributed Hash Table) の仕組みを応用し、クラウド上の計算機資源を増やすことで、本手法の処理性能を台数に比例して向上できることを実証した。トランザクション拡張では、データベース分散トランザクションの3層コミットを応用し、デバイスや通信障害があっても誤差のない正確な統計指標を得るための仕組みを提案、実装・検証を行った。 (2) 具体的な応用例であるスマートホーム向けの実装と検証: 研究者らが参加するTクラウド研究会のプロジェクト内で検討と実証を行った。家庭で利用される電力量の収集に本手法を適用することで、個々の家庭の電力消費量は家庭でのみ参照しつつ、事業者が消費電力の合計値 (統計指標) を得ることで、消費電力量の予測や、ピークコントロールを行うためのモデルへの応用を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトは、次のような当初計画 (研究課題採択時点) にしたがって研究を推進している。H26年度: 理論的な研究とプロトタイプ実装 : センサーで取得されるデータを複数の異なるクラウド上で処理する具体的な手法について理論的な検討・研究を行う。また、プロトタイプ実装を行い、テストベッドでの試験・評価を行う。H27年度: インタークラウド環境における実証実験 : 上記実装を用いて、研究プロジェクト distcloud の大学間クラウドや商用クラウドなどのインタークラウド環境での実証実験を行い、提案手法の有効性と安全を実践的なフィールドで検証する。H28年度: 実用化研究 : T クラウド研究会のプロジェクトの実証実験に提案手法を適用し、実際的な視点から、実用化に向けた研究を行う。 H26年度の理論研究・プロトタイプ実装を行い、H27年度以降の拡張研究及び実証への足がかりとなる基本技術を確立した。 H27年度は大学間学術インタークラウド (distcloud) の実証実験環境や、商用のパブリッククラウド (Amazon Web Service) を用いて、センサーデータを複数の独立なクラウド上に秘匿・分割してデータを保存、分散型の分散統計解析の実証を行った。また、Tクラウド研究会のプロジェクト内でスマートホームに関する事例研究を通して、本研究で提案する手法をスマートホームサービスに応用することを検討した。本研究プロジェクトではスマートホームでの応用実装を行うとともに、商用クラウド上を用いた実証実験を行い、その有効性の確認を行った。 なお、本研究プロジェクトの課題に関連する基盤技術が Amazon Web Service が提供する Research Grant に採択さた。同 Grant により、1年間の同社コンピューティングリソースの提供を受けることになった。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は本研究で提案する秘匿分散統計解析手法の実用化研究を推進する。本研究では、事業者らが参画する研究会など (Tクラウド研究会、他) での実証実験に提案手法を適用し、実際的な視点から、以下の内容について実用化の検討、研究を行う。なお、本研究では実用化に向けた試験実装を行うとともに、研究会に参加する事業者らとの協議・検討を通して、その有効性について評価する。 (1) センサーデータの定義と統計量・分析手法の検討:H27年度はIoTの具体例としてスマートホームに着目し、家庭での消費電力量をクラウド上に収集、統計解析を行うことで、事業者単位の電力供給量の予測を行うモデルについて検討した。H27年度は、個々のデータの詳細な定義と、実証実験で利用する統計指標を定め、実用化の可能性と実効性について検討する。 (2) 実装モデルの検討と提案手法の適用:前述データと統計指標に基づいて、実際的な実装モデルを検討し、本研究で提案する秘匿分散統計解析手法を適用方法について検討し、実装実装を行う。 (3) 運用・管理モデルの検討と実装:上記実装において、実際的な視点から、事業者に課せられる運用・管理モデルについて検討し、実用化の可能性と実効性について検討し、試験実装を行う。 (4) 課金モデルの検討と実装:上記応用モデルにおける、サービス化を想定した課金モデルを検討し、試験実装を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では計算機資源の利用にあたり、計算機購入もしくはクラウドサービスの利用を想定していたが、「現在までの進捗状況」に記述したとおり、Amazon Web Service の Research Grant に採択されたため、同社の計算機資源 (クラウドサービス) の無償枠を得たため、同サービスを利用して実証実験を推進することができた。また、大学間学術インタークラウド環境についても、参加・協力大学の既存設備を利用することで新規の計算機資源の購入を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度 (H28) は、上記 Amazon Web Service の Research Grant が期の途中で終了するため、本基金に計上した予算より計算機資源を購入し、実証、実証実験を推進することを予定している。 また、国内外で研究成果発表を行うほか、実用化研究において国内外の事業者らとの意見交換や関連カンファレンスに参加するため、当初よりも出張旅費の実施が増えることを見込んでいる。
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