研究課題/領域番号 |
26330091
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岸 知二 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30422661)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ソフトウェア / ソフトウェア工学 / ソフトウェアモデリング / 構成管理 / プロダクトライン開発 |
研究実績の概要 |
ソフトウェア開発で使われるソフトウェアモデルは大規模・複雑化し、また変化が常態化するため、モデルに未完成部分や未検証部分が含まれ不整合が残存する。そうした状況に対応するための近似的モデリングの検討を進めてきたが、本研究ではそれを具体的な目的に活用するために不可欠な、近似的構成論とそれに基づく新規な構成管理手法を提案・評価することを目的としている。特に本研究では、ソフトウェアプロダクトライン開発における製品導出を対象とし、問題空間の可変性を表すフィーチャモデルと、設計空間の可変性を表すアーキテクチャモデルの間に不整合がある状況を想定して、近似的構成管理の検討を進めている。 前年度までの近似的構成管理に関するメリットやデメリットの検討を踏まえ、今年度はそれらについてさらに検討を深めた。まず、前年度までの簡易な近似化方法に対して、フィーチャモデルの特徴を踏まえよりペナルティの少ない近似化方法について検討し、その効果を確認した。 さらに近似化を行っても安全なモデル部分を特定した上でその部分についてのみ近似化を行う手法を提案した。これはモデル中で製品導出結果に影響する部分を識別する手法で、影響しない部分のみ近似化することで、ペナルティなく製品導出コストを削減することが可能となる。領域の特定に若干の計算量(ただしリニア)が必要であり、またモデルの構造によっては近似化の効果が得られない場合もあるが、近似化効果のひとつの下限を示すものであり、一般的な状況では近似化のメリットが得られることから近似化の有効性を示すひとつの結果であると言える。 一方、フィーチャモデルとアーキテクチャモデルが大規模になると、両者の不整合の検出計算量が大きくなるため、簡易的に不整合を推定するメトリクスについても検討し、一定の相関を持つメトリクスを見つけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近似的構成管理手法について、以下に示すようにほぼ予定通りに研究を進めている。 ・近似化手法の効果を確認した。フィーチャモデルを用いた近似的製品導出管理について、近似化手法が導出コストの削減という効果を持つことをシミュレーションにより確認できた。また対象とするフィーチャモデルの構造に基づいて近似化方法を決める手法も検討し、簡易な方法よりもより高い効果が得られることも確認できた。 ・近似化を行ってもペナルティが発生しない方法を考案した。具体的にはフィーチャモデルとアーキテクチャモデルをそれぞれクラスタに分割し、モデル内のクロスツリー制約や、モデル間のトレーサビリティリンクに基づき製品導出に影響しないクラスタ群を特定し、そこに対してのみ近似化を行うことで正しい製品導出を低コストで行う方法である。これにより近似化メリットのひとつの下限を認識することができた。 ・不整合識別のためのメトリクスを考案した。フィーチャモデル等は大規模になりうるため、不整合の存在を正確に検出することは計算コストが大きい。そこで不整合の存在を推定するメトリクスを設定し、シミュレーションによりメトリクスの有効性を確認した。 ・探索的手法の適用実験:近似的な解を求めるという立場からは、本研究のようにモデルを近似化して製品導出する方法の他に、近似解を探索する手法の適用も考えられる。予備的検討として、制約ソルバに目的関数を与えてそれを最大化する製品を導出する手法についても検討を行った。手法が異なるため製品導出のコストを比較することはできないが、導出された製品の質を比較することで別の観点からの近似化の議論が可能と考えられる。 以上、ソフトウェアプロダクトラインにおける製品導出という対象に限っていえば、当初計画していた構成論、モデル、メトリクス、環境について一定の成果を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度を踏まえて今後は以下のように研究を推進する予定である。 ・製品間距離の活用:導出される製品の間に距離を定義し、不整合や近似による距離への影響との相関を見ることで、近似的に導出された製品からの距離で、本来導出されるべきであった製品の候補を特定することが可能になると考えられる。こうした距離を活用した近似的製品導出手法について検討を進める。 ・モデルの構成論:ソフトウェア開発においては不整合の混入は避けられず、大規模なモデルを構築する際には何らかの不整合が内在する。現在までは不整合が存在するモデルが与えられたときに、そこから製品導出を行うという状況を想定しているが、その範囲をモデル構築まで広げることを考えている。つまり、不整合が発生し得る状況においてどのようなモデルを構築することが有利であるかというモデル構築論について検討する。特定の構築論に基づいて作られたモデルであるという状況を利用することで、より有効な近似的構成管理が可能となることを期待している。構築論に関しては、現在交流のある企業からも問いかけられている問題であり、より実践的な成果へとつなげるためにも取り組む方向である。 ・対象範囲の拡大:いたずらに対象を広げて一般化する予定はないが、ソフトウェアプロダクトライン開発以外の構成管理への適用についても必要に応じて検討を広げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
評価のためのシミュレーション環境の開発費用が、オープンなツールの利用等で削減することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
モデル構築に関する研究対象の拡大に関して、利用する予定である。
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