研究課題/領域番号 |
26330120
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
篠宮 紀彦 創価大学, 理工学部, 教授 (60409779)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 情報ネットワーク / 障害復旧 / ネットワーク制御 |
研究実績の概要 |
現在、インターネットを介した多種多様なサービスが多くの人によって利用されているため、ネットワークを流れる情報量は否応なしに増加しており、たとえわずかな時間の障害や輻輳であっても、通信サービスを利用するユーザに甚大な損害を与える可能性がある。同時に情報通信ネットワークは大規模かつ複雑になっており、より信頼性が高く、効率の良い管理および制御のための技術が求められている。本研究では、従来、グラフ理論を用いて確立されてきたネットワーク制御手法を拡張し、近年、ソフトウェアによって、より自由度の高い制御を可能にする技術として注目を集めているSDN(Software Defined Networking)とりわけOpenFlowプロトコルを用いて、信頼性の高い大規模なネットワークの設計を目的としている。具体的には、制御負荷の軽減とシステム規模の拡張性を高めるため、分散配置された複数のコントローラが協調動作して効率的な運用を実現する発展的な手法を研究している。 一般的にリング型のトポロジを用いた障害復旧技術は少ない制御メッセージ数で高速な障害復旧が可能であることが知られているが、適応可能なネットワークが限られている。そこで、この技術をメッシュネットワークへ適用する取り組みがなされており、リング構造(サイクル)を用いた障害復旧方式が提案されている。この方式では、全ての通信回線の障害に対応でき、かつ、予備経路を最大限に節約するサイクルの集合を求めることが非常に難しい。 そこで、まず集中型のコントロールプレーンによる障害復旧制御に焦点を絞り、提案手法を実装するための要求条件や基本タイセット系を用いた障害復旧の動作について詳細な設計を行った。また、実際に開発したOpenFlowによる障害復旧方式を評価するための検証実験を行い、結果の考察から有効性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模化しているネットワークを制御可能なSDNの設計手法について研究を進めている。SDNを用いた実装例も多く出てきているが、より大規模なネットワーク制御を実現するためには、(1)コントローラへの負荷集中、(2)制御チャネルの遅延の影響、(3)制御ルール数の制約という問題点があった。 当該年度では、基本タイセット系による障害復旧を実現するために、予備経路の算出方法と障害が発生してから復旧するまでの一連の具体的動作を提案し、各ノードが所持するテーブルの作成法、および、テーブルに従ってどのように振る舞うかを分析した。具体的には、(3)の問題に着目し、ネットワークの規模が大きくなったとしてもフローエントリ数の増加が緩やかなフローエントリの作成方法を提案した。また、問題(1)と(2)に対応するため、複数コントローラによるコントロールプレーンの構築方法について議論し、コントローラ間の情報共有を削減可能なサイクルクラスタリングを提案した。 また、実際のネットワークに近い環境であるOpenFlowネットワークへ提案方式を実装し、特性を検証した。コントローラを構築するプラットフォームは、Linux Foundation傘下の共同オープンソースプロジェクトであるOpenDaylightおよびNEC社のTremaによる実装を同時並行に進めており、上位と下位に分割した2階層型のコントローラの開発した。検証実験より、サイクルクラスタリングは、ランダムグラフやデータセンターを模したグラフ、広域ネットワークをモデル化したグラフにおいて、集約ノードの信頼性を高め、かつ、共有する情報量を削減することが可能であることが分かった。現状までで、提案方式はノード数が増加してもパケットロスを抑えた障害復旧を少ない制御メッセージ数で実現できることを示せている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、タイセットに基づく障害復旧手法における最大フローテーブル数の解析を行う。SDNではスイッチに登録可能な制御ルール数に限りがあるため、フローエントリ数を抑える必要があり、これまで基本タイセット系を用いることで予備経路用のフローエントリを削減する手法を検討してきた。しかし、この手法は平均フローエントリ数の低減にのみ着目しており、その最悪値は考慮していなかった。多くのフローが通過するノード(中心ノード)のフローエントリ数が高くなる可能性がある。また、基本タイセット系の作成に用いる木の特徴によっても、平均フローエントリ数に対して最大フローエントリ数が変化することが分かっている。より大規模なネットワークでの特性を調べるため、フローエントリ数の上限を求めることが必要となる。 次に、彩色アルゴリズムを応用したタイセットIDの節約手法を提案する。基本タイセット系を用いた障害復旧制御では、パケットヘッダの特定のフィールドにタイセットIDを書き込んでいる。必要なタイセットID数は、ネットワークの零度が高くなると増加し、ヘッダに書き込むことが出来る上限数を超えてしまう可能性がある。そこで、グラフの彩色問題を応用したタイセットIDの節約方法が必要となる。この方法では、リンクを共有しないタイセットには同じIDを付与可能であることを利用し、ID 数を削減可能としているが、リンクの追加などのトポロジに変化があった場合には、彩色数が増大してしまう可能性がある。そこで、トポロジの変化に彩色を求める必要がある。 その他、可能であれば、グループテーブルを使用した高速障害復旧方式の提案、クラスタリングにより削減可能な共有情報量の下限の解析、共有情報の削減によるコントローラ負荷の低減効果の計測も進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国際会議への参加が学内校務のためキャンセルとなった。また、実験環境として購入予定だったコンピュータ関係の部品価格が下がり、購入費用を抑えることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
別の国際会議へ研究成果をまとめた論文を投稿し、採録されているので、研究協力者と共に参加し、発表および最新の技術動向を調査する予定である。
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