研究課題/領域番号 |
26330150
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
静谷 啓樹 東北大学, 教育情報基盤センター, 教授 (50196383)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一方向性関数 / 不動点 / 楕円曲線 / 離散対数問題 |
研究実績の概要 |
本研究は、一方向性関数をはじめ暗号理論の根幹を担う関数の不動点に関する理論を構築することを目的としている。現在までに具体的に取り組んでいる関数の一つは、標数 p>3 の有限素体 F=Z/pZ 上の楕円曲線 E(F) 上で、f:E(F)→E(F) を f(P)=uP、P=(u,v)∈E(F)で定義されたものである。この関数の不動点の分布(F上のどの楕円曲線にいくつの不動点があるのか)は未解決である。 平成28年度までに、F上の楕円曲線(同型を無視して全部で p(p-1)個が存在)の半分以上の曲線に自明な不動点が存在することを示し、さらに、整数の分割を数え上げる手法を応用することにより、 (p-1)(p-2)/6-d 以上の曲線に非自明な不動点が存在することを示した(d は p の mod 4 の値に応じて決まるO(p)の補正項)。 一方で、非自明な不動点がまったく存在しない曲線の個数については、素数分布関数を用いて表現した弱い下界しか得られておらず、またどのような不動点もまったく存在しない曲線については目立った成果が得られていない状況である。 平成28年度はまた、研究代表者が20年ほど取り組んでいる「情報理論的安全性に裏付けられたカードプロトコル」について、抽象機械上で形式化した枠組みとプロトコルの開発状況などを、プロトコルにおけるカードの不動点の検討を含めて公表した(招待論文)。これは研究代表者と本研究課題には参画していない研究者との共著であり、抽象機械上で形式化された枠組みについても、同じ共著者とともに構築したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で述べたように、非自明な不動点がまったく存在しない曲線の個数については、素数分布関数を用いて表現した弱い下界しか得られておらず、またどのような不動点もまったく存在しない曲線については目立った成果が得られていない状況である。 また当初の研究計画では、剰余類環 R=Z/nZ 上の多項式で表現される関数 g(X)∈R[X} の不動点について検討することとなっていたが、g(x)=x となる不動点を求める問題に付随する可算無限集合が NP 完全であることを示せたものの、証明の深さが足りず、より一般化された代数構造や枠組みの上での命題を目指したが、そこにたどりついていない。
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今後の研究の推進方策 |
素数分布関数で下界を評価する方法については素数分布関数の劇的な進展(すぐに起きそうもない)がなければ改善が難しいため、別のアプローチを検討する。特に、不動点をまったく持たない曲線が存在した場合に、その曲線に固有の特性を抽出し、その特性を持つための条件を求めて曲線を数え上げ、それを上界として評価する方針が考えられる。その評価を平成29年度中に実施し、本研究の成果として論文を公表する作業に入る。 一方、環 R=Z/nZ の多項式環 R[X} の不動点に関する考察は、基本的には零点の考察と同等であるため(g(x)=x ⇔ f(x)=0 ∧ f(x)=g(x)-x)、零点を求めることの計算量的複雑さの議論に還元して考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の実施中に解決が難しい課題に遭遇したため、その解決に向けた思考と資料精読に注力することして、予定していた学会参加や発表などを差し控えた結果である。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題は平成28年度が最終年度であったが、本報告の随所に記載のとおり遅れが生じているため、最終年度を平成29年度に延長したい旨を願い出た。その際、使用予定額は0円として承認されており、平成29年度の使用予定はない。実際、本研究課題に関する限り、当該年度は論文執筆と投稿にのみ充てられるため実質的に経費は生じない。
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