研究課題/領域番号 |
26330174
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
笹岡 貴史 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 特任講師 (60367456)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 三次元物体認知 / 身体化による認知 / 心的回転 / 心的イメージ |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き,物体の景観の比較照合課題(Sasaoka et al., 2010)遂行中の実験協力者の脳活動の分析を行った.課題では1個の新奇物体(ペーパークリップオブジェクト;Bulthoff and Edelman, 1992)の景観(ターゲット)が2秒間提示され,その後提示された1個の景観(テスト景観)がターゲットと同一の物体か判断した.実験は2セッション行われ,Active群の被験者はセッション間にトラックボールを縦方向±45°の範囲回転させることでその範囲の物体の外観を観察(能動的観察)した.一方,Passive群の被験者はActive群の被験者が行った能動的観察のリプレイを観察した.第2セッションにおけるテスト景観が±15°,±45°の時の脳活動と0°の時の脳活動の差分について群間比較を行うと,Active群において右前島皮質に活動が見られた.さらに,テスト景観が±15°の時のActive群の脳活動をセッション間で比較すると,右前島皮質に活動が見られた.前島皮質は自己主体感との関連が知られており(Farrer & Frith, 2002),Active群で自己運動イメージを利用した景観の比較照合が行われていたことが示唆される. また,本年度は上記課題で用いられたペーパークリップオブジェクトの実物体を3Dプリンターによって作成し,能動的観察において実験協力者が実物体を手に持って観察する実験を開始した.予備実験において実物体の能動的観察による物体認知の促進効果は縦方向,横方向の回転に対しても現れることを確認した.平成28年度では実験を継続して行い,実物体の能動的観察による効果のより詳細な検討を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では物体認知の促進効果が前島皮質と関連することが確認された.一方で,MRT-Aテスト(Vandenberg & Kuse, 1978)による空間認知能力と脳活動の関連について解析を行ったが,顕著な結果を得ることができなかった.そのため平成28年度ではVVIQ (Vividness of Visual Imagery Questionnaire; Marks, 1973) などイメージ生成能力を測定する質問紙を用いることで検討を行う. 一方で,本年度は実物体を能動的観察することによる効果を検討する実験において,特にPassive群がActive群のリプレイを観察する際,いかにしてActive群の能動的観察をPassive群に提示するかといった技術的課題が存在したが,現有設備である眼球運動計測装置付属のビデオカメラを使用し,実験協力者の目線の動画を撮影することで解決できた.これにより平成27年度中に実験を開始することができた.平成28年度前半にはデータの収集・分析を進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
空間認知能力と脳活動の関連について解析を行ったが,顕著な結果を得ることができなかったため,本年度は以下の方策によって研究を進める. (1) 先行研究(Logie et al., 2011)においても脳活動との関連が示されているVVIQを用いて,高イメージ群・低イメージ群の間の比較,およびVVIQの得点と相関する脳活動の特定を行う. (2) 領野間の機能的結合の変化を検討する.具体的には実物体を用いた能動的観察を行う実験の前後の安静時脳活動を測定し,実験前後の機能的結合の変化を検討し,さらにPassive群との比較を行う. (3) 観察課題中の眼球運動を測定することで,Active群とPassive群の比較および,VVIQテストの得点との相関を調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に心理実験を効率的に遂行するため,現有設備に加えてステレオグラフィックスにより三次元刺激の提示が可能な高速で高精度の描画を行うことのできるパーソナルコンピュータを追加購入する必要が生じたため.
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次年度使用額の使用計画 |
上記パーソナルコンピュータを1台追加購入し,平成28年度に継続して行う心理実験において,現有設備と同等のステレオグラフィックスによる高精度の刺激提示,および反応収集を行うために用いる.これにより,2名の実験協力者について同時に実験を行うことが可能となり,実験データを効率的に収集可能となる.
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