研究課題/領域番号 |
26330174
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
笹岡 貴史 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 特任講師 (60367456)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 三次元物体認知 / 身体化による認知 / 心的回転 / 心的イメージ / 安静時脳活動 |
研究実績の概要 |
CGで作成した新奇物体(ペーパークリップオブジェクト)の外観の比較照合課題(Sasaoka et al., 2010)を2セッション行い,セッション間に3Dプリンターで作成したペーパークリップオブジェクトの実物体を手で回転させることにより能動的観察を行った群(能動群)と,能動的観察を行っている被験者視点での映像を受動的に観察した群(受動群)で,前後の比較照合課題の成績を比較した.比較照合課題では最初に物体のある外観が提示され,その後最初の外観から様々な回転角度で回転された同じ物体の外観,または異なる物体の外観が提示され,被験者はそれが最初に提示された物体と同じかどうか判断した.実験前にはイメージ生成能力を測定する質問紙(VVIQ; Marks, 1973)を用い,各被験者のイメージ生成能力を調べた. 各群で,各回転角度における正答率についてVVIQ得点を共変量とした共分散分析を行った結果,能動群のみ回転角度とセッションの有意な交互作用が見られた.よって,能動群のみ観察課題による効果が生じたと考えられる.受動群においてはVVIQ,回転角度,セッションの交互作用が見られ,イメージ能力が高いほど受動的観察でも物体認知が促進するという結果を得た.さらに,全被験者のVVIQ得点の中央値を基準にイメージ能力低・高群に分け,物体認知の促進効果とVVIQ得点の相関を調べた結果,能動群において,イメージ能力低群でイメージ能力の低い人ほど促進効果が大きかった.この結果は,イメージ能力が高いと受動的観察で物体認知の促進が生じうるが,イメージ能力が低いと能動的観察による物体認知の促進効果が強く生じることを示している.すなわち,この結果は「能動的探索による物体認知の促進効果はイメージ生成能力を運動系からの信号が補償することで生じている」という本研究の仮説を支持していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までの取組みにおいて,当初イメージ生成能力を測定する指標としてMRT-Aテスト(Vandenberg & Kuse, 1978)を用い,空間認知能力と物体の外観の能動的探索による物体認知の促進効果の関連について検討を行ったが,それらの間には明瞭な関係が見られなかった.そこで,平成28年度には近年の研究で脳活動との関連も示唆されているvividness of visual imagery questionnaire(VVIQ; Marks, 1973)を指標として用いることとした.その結果,平成28年度に,実物体の外観の能動的探索による物体認知の促進効果におけるイメージ生成能力(VVIQ)の影響が観察された.しかし,イメージ生成能力高群・低群に分けた分析を,被験者を能動群・受動群に分け,グループ間比較によって行うにあたり,通常の心理実験の倍の被験者数が必要となること,また前後に測定する安静時脳活動データの信頼性を高めるためには,可能な限り多くの被験者数を必要としたため,平成28年度は実験環境の整備およびデータの収集,初歩的な分析に終始した.その結果として,平成28年度には詳細な分析を行うまでには至らなかった. 平成29年度までの期間延長が認められたため,本研究で得られた知見を国内外の学会で発表するとともに,行動データ,および安静時脳活動データの詳細な検討を行うことができ,本研究の当初の目的である仮説の検証が進展することが期待される.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に行った実験において,3-Dプリンターによって作成した実物体の外観を能動的探索することによる物体認知の促進効果が個人のイメージ能力(VVIQ)の影響を受けることが示され,今後の研究で「能動的探索による物体認知の促進効果はイメージ生成能力を運動系からの信号が補償することで生じている」という本研究の仮説を検証するために,VVIQを使って検討を行うことが有用である可能性が示された.そこで,本年度は被験者数を増すことで行動データおよび実験前後に測定する安静時脳活動データの信頼性をさらに高めるとともに,今後安静時脳活動の分析を詳細に行うことによって,物体認知の促進効果やVVIQの個人差に関わる神経基盤を明らかにしていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画の最終年度である平成28年度に行った実験において,実物体の外観の能動的探索による物体認知の促進効果とイメージ生成能力の個人差との関係が観察された.実験結果の信頼性を高めるため,またその脳内基盤を明らかにするため,被験者を増やし,実験前後に安静時脳活動測定を行うなど,追実験を行う必要が出てきた.また,これらの成果は世界的にも先駆的な知見となる可能性があり,国内外での学会発表,論文投稿を行うために,平成29年度まで延長申請を行う必要が出てきたため.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の成果および平成29年度での成果は,平成29年8月に行われる国際学会(ECVP2017, Berlin, Germany)において発表を予定している.そのための学会参加費および旅費に使用する.また,論文投稿のための英文添削費用・論文投稿料にも使用する予定である.
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