研究実績の概要 |
平成27~28年度に行った心理実験の前後に取得した安静時のfMRIデータの解析を進め,能動的観察による物体認知の促進に関わる神経基盤について検討した.心理実験は2セッションの比較照合課題とセッション間に行われる観察課題からなる.比較照合課題では,CGで作成した新奇物体(ペーパークリップオブジェクト)の2つの外観を経時的に提示し,被験者はそれらが同じ物体の外観か異なる物体の外観かを判断した.観察課題では,被験者を能動群と受動群に分け,能動群は3Dプリンターで作成したペーパークリップオブジェクトの実物体を手で回転させることにより能動的に外観を観察した.受動群は能動的観察を行っている被験者視点での映像を受動的に観察した.実験の前後に開眼安静でfMRIの撮像を10分間行った.さらに,被験者は事前にイメージ生成の明瞭さを測定する質問紙(VVIQ; Marks, 1973)に回答した. 実験前後それぞれの安静時脳活動における低周波変動の振幅 (fractional amplitude of low frequency fluctuations; fALFF; Zou et al., 2008)とVVIQ得点との相関を調べた.その結果,実験前の安静時脳活動で,イメージをより明瞭に生成できる個人は右中前頭回,右後部頭頂葉,イメージがより不明瞭な個人は両側の運動野,視覚野においてfALFFが高まった.この結果は,明瞭なイメージ生成ができる個人は前頭-頭頂の注意ネットワークが,明瞭なイメージ生成ができない個人は運動シミュレーションがイメージ生成に用いらていれることを示唆している.また,実験後には有意な相関を示す脳部位が見られなくなったことから,能動的・受動的観察を行うことでイメージ生成の明瞭さに関わる神経ネットワークの個人差が減少することが示唆された.
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