研究課題/領域番号 |
26330177
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
高橋 宗良 玉川大学, 脳科学研究所, 嘱託研究員 (70407683)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 選好判断 / 視覚情報処理 / 魅力度判断 / 潜在的情報処理 |
研究実績の概要 |
過去の先行研究の結果より、潜在的な選好判断と顕在的な選好判断では脳内における対象の魅力度処理(価値表象)が大きく異なる可能性が示唆されている。それぞれの処理には報酬系処理領域と海馬系領域を中心とした異なるネットワークが重要な役割を果たしていると考えられることから、両領域によって構成されるネットワークの機能理解は選好判断の脳内メカニズムの解明に極めて重要であるが、その詳細はこれまでの研究では明らかになっていない。そこで本研究では視覚的選好判断における潜在的処理と顕在的処理について、これらの領域の活動に注目し、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いてその脳内メカニズムを探ることを目的とする。本年度は連携研究者の先行研究によって確立された視覚刺激に対する潜在的な選好判断と顕在的な選好判断を抽出する行動実験課題をベースとして、予備的な行動実験によって実験パラメータのチューニングと細部の調整を行うとともに、fMRIスキャナ内で実施可能なように課題に修正を加えるセットアップを行った。行動実験では画面中央に幾何学図形を、その周辺に4つの顔画像を表示し、顔画像の魅力度が中央の図形の魅力度評価に及ぼす影響を検討する課題を用いた。被験者は周囲の顔画像を無視して中央の図形の魅力度のみを回答するよう指示されたが、周囲の顔が被験者(日本人)と同じアジア人顔であれば、図形の評価は無視しているはずの顔の魅力度を反映して変化した。一方で、被験者と異なる人種である欧米人顔を用いた場合にはこの効果は確認されなかった。この結果は潜在的な顔の魅力度の評価・伝搬プロセスには、人種的な顔の親近性が重要な役割を果たしている可能性を示唆しており、今後のMRI実験での提示刺激の選定に対しても重要な知見となった。本成果は次年度開催の日本神経科学大会にて発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はfMRI実験に適した実験課題を先行研究をベースに作成し、実験パラメータを修正・調整することが主要な課題であった。試行錯誤の結果、当初の計画にあった顔画像と風景画像の組み合わせを用いた実験課題よりも、無視している画像の魅力度の伝搬(「漏れ」)がロバストに検出できるということで、幾何学図形と顔画像の組み合わせを用いた実験課題を中心に本年度の研究は展開した。本課題を用いても従来の目標である視覚情報処理における顕在的処理と潜在的処理のメカニズムの考察は充分に可能である。MRIスキャナ外で行う行動実験では、実験パラメータの調整はほぼ完了している。一方で、スキャナ内(MRI撮像中)では、眼球運動のアーチファクトを脳活動データから除外する必要があることから、一点を固視した状態で周辺視により提示画像全体を認識させる工夫が必要となった。そのための画像サイズの調整や画像の配置の工夫に若干の時間を要している。現在、実験関係者によってパラメータの最終調整をしている段階で、被験者を用いた実験による検証までは本年度内に進むことができなかった。しかし程なくこれらのパラメータ調整も完了するものと推測できることから、達成度としては概ね順調と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はMRI実験による脳活動計測と解析を本格化させて行く。また、本年度の成果である人種によって顔の魅力度の「漏れ」効果が異なる現象については、使用した顔画像がCG(コンピュータ・グラフィックス)で作成したものであることから、実際の顔画像で同様の効果が得られるのか不明な部分が残った(CG画像に特化した現象である可能性も、現時点では否定できない)。この点の検証のためにCG画像を用いた実験と並行して顔写真を用いた実験を行うことを計画している。現在日本人の顔写真データベースは実験用に公開されているものがほぼ皆無であることから、本研究の一環として写真データベースを作成することを学生被験者の協力を仰ぎながら進めていく。予備実験に参加した被験者の報告では、CGによる顔画像に違和感を覚えたケースが少なからずあったため、違和感を和らげる提示方法の模索が必要である。あわせて実際の写真を用いた方法の導入はより自然な実験条件となることが期待される。従来予定していた顔画像と風景画像を用いた実験課題についても引き続き魅力度の「漏れ」効果がロバストに確認可能なパラメータの調整を続けていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
MRI実験が本格的な軌道に載せるところまで進まなかったため、被験者用に準備した謝金がかからなかった。また、データ解析が本格化しなかったことから解析用コンピュータの導入を本年度見合わせた(なるべく最新のスペックを導入した方が、高い対費用効果を期待できるため)。また、行動実験のデータ解析が遅れたことから海外学会への出張を取りやめ、国内研究会参加に切り替えたことと、身内の不幸から海外出張(カリフォルニア工科大での連携研究者とのデータ議論)をキャンセルしたことにともない、旅費が当初の予定よりもかからなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
MRI実験の本格化にともない、解析用コンピュータとデータ保存用のハードディスクドライブ等を購入する。また、本年度の行動実験によって得た知見から、当初の実験案を拡張させた課題についてもMRI計測を行い、本年度の人件費・謝金はその謝金として割り当てる。また、顔写真データベースの作成に協力してもらう学生被験者への謝金としてもその一部を割り当てる。旅費としてはカリフォルニア工科大の連携研究者とのデータ議論の機会を当初の計画より増やし、より緊密な連携をはかることを検討する。
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